HTTP/1.1 200 OK Date: Tue, 13 Apr 2010 02:16:12 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:おばあさんが一人で店番をしている書店があった。中学生の男の…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2010年4月13日

 おばあさんが一人で店番をしている書店があった。中学生の男の子が、いたずら心で国語の辞書を持ち出そうとしたら、見つかって諭された。「あのね、そういうことばかりされると、わたしたち本屋はね、食べていけなくなるんですよ」▼裏庭で命じられたのはまき割り。罰だと思っていたら違った。「働けば、こうして買えるのよ」とおばあさんは国語辞書を渡し、労賃から辞書代を差し引いたお金までくれたという▼劇作家・作家の井上ひさしさんが中学の一時期を過ごした岩手県一関市のエピソードだ。井上さんは<おばあさんはまっとうに生きることの意味を教えてくれたんですね>と述懐している(『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』)▼肺がんで亡くなった井上さんの戯曲や小説は、持ち前のユーモアや風刺の中にも、まっとうに生きている人を包み込む温かさがあった。市井の人々がまっとうに生きられなくなるからこそ、戦争を憎んだ▼護憲を訴える「九条の会」の呼び掛け人の一人に名を連ねた。近年は戦争責任をテーマにした芝居も手掛け、東京裁判をモチーフにした「夢の裂け目」などの三部作が、ちょうど東京の新国立劇場で三カ月にわたって連続上演中だった▼療養中も新作の構想を練るなど創作欲は旺盛だったという。原稿の遅さで知られた人だが、人生も「遅筆堂」でよかった。

 

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