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何とも心躍らぬ新党の船出である。
平沼赳夫元経済産業相、与謝野馨元財務相ら衆参の5人の国会議員が、新党「たちあがれ日本」を結成した。
「打倒・民主党」をスローガンに、夏の参院選で与党を過半数割れに追い込むのが最大の目的だという。
政権交代から7カ月。鳩山内閣への期待はしぼむ一方なのに、自民党への支持は一向に回復しない。もはや再生を待っていられない。新党で目先を変えて、民主党への批判票の受け皿になる――。それが与謝野氏らの狙いだ。
しょせん自民党の補完勢力か。多くの有権者にはそう映るのではないか。昨年の総選挙で自民党政治にノーをつきつけた民意を吸収するのは容易ではなかろう。
いまや第3極として存在感を増す「みんなの党」(渡辺喜美代表)には、脱官僚や地域主権など、わかりやすい政策の旗印がある。
平沼・与謝野新党も、消費税引き上げによる財政再建や自主憲法の制定などを掲げるが、共同で代表を務める両氏の持論をつなぎ合わせただけにしか見えない。政党要件を満たすために5人が集まった数合わせの印象が強い。
何より平均年齢約70歳という面々から、新しい時代を切り開く清新さは感じとれない。自民党離党前、執行部に中堅・若手の大胆な登用を求めたのは他ならぬ与謝野氏だ。これでは話のつじつまが合わないのではないか。
参院選に向けては、山田宏・東京都杉並区長や中田宏・前横浜市長ら首長連合による新党結成の動きもある。
迷い道を抜ける気配のない2大政党の下で、行く先を探しあぐねる有権者の層も膨らみつつある。そのことが、一連の動きの根底にあるのだろう。
朝日新聞が今年行った政治意識の世論調査では、政界再編を望む意見が62%を占めた。政権交代を経てもなお、再編への待望論が強いのは、民主、自民両党とも、党内に多様な意見の持ち主を抱え、理念や政策面をすっきりと整理できていないことがある。
与謝野氏らには、参院での与党過半数割れを民主、自民双方を巻き込んだ再編につなげたい考えもあるようだ。
しかし、小選挙区制を軸とした現行の選挙制度では、政治勢力はおのずと二つの大きな固まりに集約されていく。政権を争う2大政党が曲がりなりにも育った現状の下で、新たに本格的な再編を起こすことは容易ではない。
現行制度が導入されてしばらくの間、新党が乱立し、離合集散が繰り返された。それが有権者の深刻な政党離れを招いた記憶はまだ生々しい。
民主、自民両党の責任は重い。古い政治に見切りをつけ、政権交代のある政治を選び取った有権者を、どこまでがっかりさせるのか。「たちあがれ」の言葉は、両党にこそ贈りたい。
戦略的に重要であれば、その国のはらむ大きな問題に目をつぶって援助をしてよいか。死傷者を出した騒乱の果てに野党勢力が臨時政府の樹立を宣言したキルギスの政変は、こんな問いを国際社会に投げかけている。
首都を脱出したバキエフ大統領は5年前、腐敗や強権体質がひどかったアカエフ前大統領への市民の抗議行動を率い、15年近い長期政権を倒して自らが権力の頂点に立った。
それがいま、親族や取り巻きによる利権の支配、報道や政敵に対する締めつけの横行という、アカエフ氏とまったく同じ強権への批判を受けて失脚した。皮肉というほかはない。
中央アジアのキルギスは人口550万人ほどの小国。天然資源に恵まれないうえに政治的な混乱も続いたことで、旧ソ連の中で最貧国の一つだ。
もともと中央アジア諸国の政治には強権的な傾向が強かった。長くソ連共産党の独裁のもとにあって民主主義の伝統も乏しい。不正だらけの選挙で、指導者は権力の座に居座り続け、地縁や血縁を重視した政治が続いた。
そうした国々が独立した当初、米欧をはじめとする国際社会は国づくりを支援するにあたって民主主義や人権の尊重を強く働きかけた。しかし、2001年に米国同時多発テロが起きて状況が変わった。米国は、アフガニスタンでの対テロ軍事作戦に隣接する中央アジア諸国の協力を得るため、民主主義や人権状況への批判を弱めた。
とりわけキルギスには中央アジアで唯一の米軍基地があり、アフガンの多国籍軍の物資空輸拠点として戦略的な重要度が増した。バキエフ政権が強権色を強め、批判が高まっても、米国が主要国で格段に多い経済援助をつぎ込んできたのはそのためだ。
ロシアも中央アジアへの米国の進出を牽制(けんせい)するためにキルギスに基地を置き、多額の財政支援をしてきた。結果的に米ロのような大国の思惑を優先させた関与が、バキエフ政権の腐敗や強権を延命させる形となってしまった。
一国の民主化は一朝一夕には達成できない。キルギスもその道の半ばにある。今後も混乱が続けばイスラム教徒の多い国民の間に、近隣のアフガンなどを震源とする過激派の影響が強まりかねない。中国の新疆ウイグル自治区にも隣接するこの国が不安定になれば周辺地域にも深刻な影響を及ぼす。
中央アジア諸国への国際社会からの支援は必要だが、短期的な視点に傾きすぎてはいけない。民主化や経済の安定に役立つものへ見直すべきである。
必ずしも広く知られているわけではないが、日本には、民主化や市場経済化の人材育成、インフラ整備、地域振興などのキルギス支援に息長く取り組んできた実績がある。この国が再生を目指すいまこそ生かしたい。