HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17891 Content-Type: text/html ETag: "5d1965-45e3-ecda2c40" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 10 Apr 2010 02:21:25 GMT Date: Sat, 10 Apr 2010 02:21:20 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年4月10日(土)付

印刷

 東京の調布市に仙川(せんがわ)という私鉄駅があって、2本の古い桜が枝を伸ばしている。10年前に駅前整備で切られかかったが、住民の熱意で生き残った。先週久しぶりに訪ねると、春冷えの中に花を咲かせていた▼伐採には約1万4千人の反対署名が寄せられた。住民と市の討論会の様子を、当時の小欄が書いている。最後に市長が決断した。マイクを握り、「老木だから10年ともたないかも知れないが、枯れていくのを見届けるのも、また人生です」。そう言う市長も目を潤ませていた▼幸せな桜もあれば、幸薄い桜もある。国体の会場整備のために切られて、あわれな切り株をさらす桜の話が、先日の小紙岐阜県版にあった。不運な桜は、ほかにも全国に数多(あまた)あることだろう▼花の盛りは愛(め)でてやまないのに邪魔になれば切ってしまう。京都の桜守で知られる佐野藤右衛門(とうえもん)さんが前に言っていた。「どうしても切るというなら満開のとき切ったらええ。満開のときに切る度胸があるか、と聞いてみたい」。きびしい口調が記憶に残っている▼大正の末、岡本かの子は「桜」と題する139首を一挙に発表して評判になった。冒頭にこの一首を置いた。〈桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命(いのち)をかけてわが眺めたり〉。藤右衛門さんの言葉と遠いところで響きあう▼冒頭の仙川は、かつてわが最寄りの駅だった。生き残ったのを機に夜桜コンサートが始まり、この春で10回を迎えた。満開の下で毎年写真を撮る一家もいる。幸せな木は人も幸せにするようだ。何も桜に限ったことではない。

PR情報