地域医療を担うはずの日本医師会が特定政党に媚(こ)びて利益団体になりさがっていては国民に支持されない。政治から距離を置き、まっとうな医療政策を提言する専門家集団としての役割を果たせ。
今月初めに行われた日医会長選では、民主党支持を表明していた茨城県医師会長の原中勝征氏(69)が他の三候補を退けて初当選した。日医で民主党支持の会長が選出されたのは初めてであり、他の医療系団体にも少なからず影響を与えるだろう。
昨年の政権交代後、民主党は日医の自民寄りの姿勢にくさびを打ち込もうと、中医協委員の人事に直接介入し、衆院選で民主党候補を支持した茨城県医師会員らを任命した。先の診療報酬改定では歯科の改定率が医科よりも高く設定されたが、これは総選挙後、日本歯科医師会の政治団体がいち早く民主党寄りの姿勢を明らかにしたことへの論功行賞とみられる。
今回の原中氏の当選は、政権与党の勢いに乗り遅れまいとする計算が働いたのだろう。
だが、政権が交代するたびにすり寄る相手を変えるのは見苦しい。再び政権が交代すれば、節操もなくまた相手を変えるのか。
日医は本来は、専門職の学術団体のはずだが、実際には例えば二年に一度の診療報酬改定の際、開業医に有利になるように既得権の擁護に汲々(きゅうきゅう)とするなど圧力団体と化し、国民から遊離している。
日医に求められているのは、国民の立場から、深刻な医療崩壊をどう食い止め、そのために何をすべきかを専門家の立場から提言していくことだ。日医がこうした取り組みを真剣に行わない限り、国民の支持と敬意は得られない。
会長選で原中氏の得票は、有効投票数の三分の一をわずかに上回っただけだった。残りは現職会長で自民党との関係が深かった唐沢祥人氏(67)、京都府医師会長で民主、自民両党から中立の森洋一氏(62)の二人が分けあった。政権与党にすり寄ることをよしとしない会員が相当数に上り、戸惑っていることを示しているともいえる。
今回の会長選が政党との関係を根本的に見直す機会になることを期待したい。
原中氏は会長選の際のマニフェスト(私の七つの約束)の中で「政権与党とのパイプ」の重要性とともに「パイプはもろ刃の剣」「一歩間違えれば、政権与党に媚びへつらうだけの医師会になる」と述べていた。これを片時も忘れてはならない。
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