米国が「核体制の見直し」(NPR)を発表した。核抑止力は維持しながらも新たな核兵器の開発をしないと言明し、「核なき世界」を提唱するオバマ大統領の遠大な目標に一歩踏み出した。
政策見直しの特徴は、核兵器の役割を縮小したことだ。核拡散防止条約(NPT)を順守する非核保有国が仮に攻撃をしても、米国は反撃のために核兵器を使うことはないと初めて明言した。
核兵器の使用は「米国や同盟国の死活的な国益を守るため、極限の状況においてだけ考慮する」と規定した。
歴代の米政権は核使用の条件を明らかにしない「あいまい政策」を取ってきたから、大きな戦略転換といえる。ただ核開発疑惑が晴れない北朝鮮とイランは例外扱いとした。
オバマ大統領は声明で「米国と世界の安全にとって最大の脅威はもはや国家間の核戦争ではない。過激派による核テロといくつもの国への核拡散だ」と述べた。冷戦時代の戦略を変更する一方で、中国、ロシアと協調外交をし、軍事面ではミサイル防衛(MD)、通常兵器の更新という手段で脅威に対応する考えを示した。
米政権内や議会には核戦力維持を主張する声も強く、大統領が妥協した面もある。敵の核攻撃を受けない限り、核を使用しないという「核の先制不使用」宣言は見送られた。
八日にはプラハで、米ロの新しい核軍縮条約が両国首脳により調印される。昨年末で失効した第一次戦略兵器削減条約(START1)の後継となる。
米ロ双方が配備する核弾頭の上限は千五百五十発とし、モスクワ条約(二〇〇二年調印)で上限とされた二千二百発より約30%削減される。ミサイルなど運搬手段の上限も従来の半数の八百となる。
全世界の核兵器の95%を保有する米ロ両国は率先し、「核ゼロ」に向けて着実に進んでほしい。
十二、十三日にはワシントンで核安全保障サミットがあり、五月には五年に一度のNPT再検討会議がある。米の政策転換はこれらの会議に弾みをつけよう。
鳩山由紀夫首相は核サミットに出席する。オバマ大統領との公式会談は予定されず、普天間飛行場移設が影響しているとの見方もある。核軍縮が動きだした今、首脳会談がないのは物足りないが、首相は各国に対し、「唯一の被爆国」として核廃絶を目指す役割を明確に示したい。
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