神田川が隅田川に流れ込む東京・柳橋の川べりに、かつてにぎわった花柳界の面影を残す船宿が残っている。老舗の佃煮(つくだに)店「柳ばし小松屋」もその中にある。先日、四代目店主の秋元治さん(50)の案内で、船から満開の桜を見る機会があった▼隅田川に出てから、万年橋をくぐって小名木川に入る。千葉・行徳でつくった塩を直接、江戸に運ぶために、徳川家康が開削を命じた運河だ。万年橋の近くには松尾芭蕉の草庵(そうあん)があった。芭蕉のブロンズ像が船からもよく見える▼川沿いの桜並木を見上げながら、さらに狭い大横川へ。屋形船など大きな船はもう入れない。咲き誇る桜の蜜(みつ)を吸いに鳥が飛び交う。遠くにはカヌーで川下りを楽しむ人がいた▼しばし船を止めて川談議。コンクリートで固められた護岸は、貝がこびりついているだけで水草も生えていない。石垣の護岸にすれば水草が生えやすくなり、水質も浄化されていくのに、と秋元さんは力説した▼戦後、多くの運河は埋め立てられ、ふたをされて暗渠(あんきょ)になってしまったが、水路が張り巡らされた江戸は船が物流の中心を担う「水の都」だった。船で運河を回ってそう実感した▼冷暖房完備の屋形船を隅田川に浮かべてカラオケを楽しむのもいいが、小さな船で気軽に水辺の風景に親しむことができれば川の魅力は倍増する。都会の川は多くの可能性を秘めている。