HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17876 Content-Type: text/html ETag: "52fed3-45d4-6f0d200" Cache-Control: max-age=5 Expires: Wed, 07 Apr 2010 22:21:43 GMT Date: Wed, 07 Apr 2010 22:21:38 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年4月8日(木)付

印刷

 西アフリカに生息するチンパンジーが「武器」を使っているという外電を、何年か前に読んだ。木の枝をかんで槍(やり)らしきものを作り、狩りに用いていたという。人間以外による「武器製造」が観察された初の例として話題になった▼人類の武器も初めは素朴だったろう。いまや核兵器である。動物学のローレンツによれば、人間は、身体とは無関係に発達した武器を持つ唯一の動物なのだという。だから「武器相応に強力な抑制は用意されていない」と、この大学者は言う(『ソロモンの指環』)▼牙であれ爪(つめ)であれ、自然から与えられた動物の「武器」には、本能的な抑制が備わっているそうだ。だが人間は、その抑制も自らの手で作り出さねばならない。核兵器でにらみ合う「恐怖による抑止」が、冷戦のあとも続いてきた▼その不毛を消していく英断になろう。オバマ大統領が核戦略の見直しを発表した。核を持たない国には核を使わない。新たな核弾頭も開発しない。「唯一の核使用国」の責任を述べたプラハ演説から1年、米国の大きな変化だ▼むろん前途は容易でない。だがオバマ氏の信念には、過去の大統領になかった熱を見る。20世紀の人類に生えたおぞましい「牙」は、人類自身の手で退化消滅させるほかはない。その流れを涸(か)らすまいと思う▼広島と長崎で二重被爆し、この1月に亡くなった山口彊(つとむ)さんに痛切な一首がある。〈黒き雨また降るなかれにんげんがしあわせ祈るための蒼穹(あおぞら)〉。「3度目があってはならない」の悲願は核廃絶によってしか完結しない。

PR情報