マグロ狂騒曲に踊ったワシントン条約会議。禁輸回避の裏には、資源をめぐる根深い南北対立がある。同じ構図で足踏みが続く温暖化対策などの会議を控え、日本の責任は一層重みを増した。
モナコの禁輸提案に欧米が相次いで賛意を示し、クロマグロの国際取引は風前のともしびだった。
しかし、欧州連合(EU)の中でも、地中海沿岸諸国は、蓄養のクロマグロを高値で日本に輸出したいというのが本音。アジア、アフリカの途上国は、温暖化対策会議に続いて、欧米主導の会議運営に、不信と不満を表した。
禁輸回避は、日本の魚食文化が理解を得られたからではない。影の立役者は、アフリカ票をまとめた中国だ。中国でも生食マグロの消費は急激に伸びている。だが、日本が「外交の勝利」を強調すればするほど、日本の漁業や魚食に対する国際社会の監視は厳しくなる。資源が減れば、批判の嵐にさらされるのは、中国ではなく最大消費国の日本だ。
日本が率先して、マグロの資源管理を進めてきたのは確か。だが、いまだ横行する密漁や、巻き網で不要な魚も一網打尽にしてしまう混獲の防止にも、“勝った”日本はより重い責任を負わされた。禁輸案の背後には、有力な環境保護団体が控えている。イルカ漁を非難した映画「ザ・コーヴ」のように、環境保護団体は、沿岸漁業にも目を光らせている。
漁業者だけの責任にはとどまらない。子ガニを逃がす工夫を施したベニズワイガニのかご漁のように、資源維持に配慮した漁法を認証するエコラベル制度など、消費者の理解を促す仕組みづくりと普及も欠かせない。
米国の医療保険改革も一段落し、ポスト京都議定書に向けた温暖化対策の議論が再び動きだす。日本は温室効果ガスの高い削減目標を掲げ、国際社会のリード役をめざす。漁業資源もそうだが、南北対立を深めるような動きは「持続可能性」の時代に背く。自然資源の管理は結局、南北協調なしにはできないのだ。
十月に名古屋市で開かれる生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)で、指弾を受ける恐れもある。生物多様性条約会議では、南北間の遺伝資源の争奪が、主要議題になっており、生物資源の賢い利用も議題に上る。COP10を成功に導くためにも、日本の一層真摯(しんし)な管理姿勢を世界にアピールしていく必要がある。
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