HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21735 Content-Type: text/html ETag: "20e0a4-54e7-d6f24a40" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 05 Apr 2010 22:21:07 GMT Date: Mon, 05 Apr 2010 22:21:02 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):社説
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携帯ロック解除―ガラパゴス日本に別れを

 「世界一不思議な日本のケータイ」とは、通信政策を担当する総務省の課長が2008年に出版した本の題だ。

 日本の産業は、大きな国内市場に守られて、ともすれば独自規格を採用し、世界で通用しない製品開発の道をひた走ってしまうことがある。生物が独自の進化を遂げた絶海の孤島にたとえて「ガラパゴス化」問題ともいわれ、ケータイがその典型例だ。

 「不思議」の一つは、ケータイ端末がほかの通信会社では使えないよう、通信会社がいわばかぎをかけていることだ。これに対して、総務省がそのかぎを解除する方針を打ち出した。

 解除されれば、世界市場をにらんだ自由な物づくりの道も開ける。あまりに遅い転換ではあるが、ガラパゴス島からの脱出の第一歩にしたい。

 このかぎはSIM(シム)ロックと呼ばれ、電話番号などの情報を記録したSIMカードを他社の携帯では使えなくする。海外ではこのカードを差し替え、端末と通信会社とを自由な組み合わせで選んで使うのが普通だ。だが、日本では通信会社がそれぞれ専用端末を販売する仕組みができた。

 この仕組みは問題が多い。

 まず、ユーザーは、自由に携帯端末やサービスが選べた方がよいのに、選択肢が狭められる。また、端末の値段と通信料金の区別もあいまいだ。通信会社は、端末の価格をできるだけ安くして販売を伸ばし、通信料金で回収しようとする。かつて「1円携帯」が売り出されたのもそのためだ。

 国際競争力の点では、さらに弊害が大きい。メーカーは、通信会社の買い取りによって利益を確保する一方、国内向けの新製品開発競争で疲弊した。日本が得意とする分野なのに海外で力が発揮できなくなってしまった。

 高性能な製品がただ同然で売られ、物づくりへの敬意が薄れたとの指摘もある。これでは、日本の産業技術の基盤を弱めることにもなりかねない。

 世界の動きは急だ。

 フィンランドのノキアが依然3割を超えるシェアで優位は揺るがないが、韓国のサムスンが高性能ブランドを確立して2位に浮上した。スマートフォンと呼ばれる、より高機能の携帯が広がり、グーグルの無料基本ソフト、アンドロイドの利用も進む。

 大きな波は、日本にも押し寄せる。日本のケータイの闘いは厳しいものになるだろうが、国内市場に安住しているわけにはいかないことは明白だ。通信会社にしばられずに自らの強みを生かした物づくりの道を探り、世界にも打って出る。そんな本来の姿に戻るしか、日本の産業が生き残る道はない。

 「ガラパゴス化」はむろん、ケータイだけの問題ではない。せっかくの持てる技術の可能性を自ら狭めていないか。見直していく必要がある。

海賊対処1年―各国との連携をさらに

 アフリカのソマリア沖で横行する海賊から民間船舶を守るため、海上自衛隊の艦艇がアデン湾で活動を始めて1年になる。

 国連決議に呼応し約30カ国が約30隻の艦艇を派遣しているが、海賊被害は今なお増加の一途にある。2008年の111件から09年は217件と倍増し、47隻が乗っ取られた。広大な海域をカバーするには艦艇数が足りず、海賊とのいたちごっこが長期化するのは避けられそうにない。

 海自の護衛艦や哨戒機の派遣は、海上交通路の安全確保のための国際協力としては初めてだ。当初は自衛隊法の海上警備行動を根拠にしていたため、日本の船舶しか護衛できなかったが、昨年6月に海賊対処法が成立し、対象が外国船舶にも広がった。

 すでに122回、754隻(4月2日現在)を護衛した。そのうち半分以上は外国船舶で、この活動は高く評価されている。

 海賊対策は、参加各国が緊密に連携することが何より重要とされる。国連平和維持活動(PKO)のように、強い権限をもって活動全体を統括する機能がないためだ。

 参加各国間の協力は、軍当局同士がバーレーンで、政府や国際機関などが米国などで会合し、情報交換や対策検討を行う仕組みが定着したものの、調整はまだ十分とはいえない。

 例えば、アデン湾を往来する年間2万隻のタンカーや貨物船のうち、日本の船舶は約2千隻だが、日程があわないなどの理由で、今も半数以上が護衛なしに航行している。

 アデン湾での各国の対応は二つにわかれる。安全回廊と呼ばれる東西900キロの間を海軍艦艇がゾーンディフェンスする欧米の方式と、日本や中国、インド、ロシアなどのように艦艇が民間船舶を直接エスコートする方式だ。

 後者の場合、同じ海域で船団を護衛しているのに、自国の船舶を優先したり、他国にスケジュールを公表しなかったりするため、運用がばらばらだ。

 日本が中国やインドなど活動海域が重なる国々に働きかけ、互いの船舶を効率よく護衛し合える仕組みを整えてはどうだろう。

 言うまでもなく艦艇による警備や護衛は対症療法にすぎない。本来、海賊対処の主体となるべきは沿岸の国々だ。イエメンなど沿岸国の警備能力強化のための支援が欠かせない。

 日本には、海上保安庁が中心となってマラッカ海峡の沿岸国を支援し、海賊を封じ込めた実績がある。今回も沿岸国の警備隊員の研修や政府開発援助の一環として巡視船を供与する準備を進めているが、海賊の拠点となっている破綻(はたん)国家ソマリアの再建に向けて何ができるかの議論でも、国際社会を引っ張りたい。

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