来春から小学校で使う教科書が出来上がった。「ゆとり教育」からの脱却へとかじを切った新しい学習指導要領に沿い、学習内容は大幅に増えた。先生には授業に打ち込める環境を与えたい。
文部科学省の検定に合格した教科書は、かなり分厚くなった。二〇〇〇年度の「ゆとり教育」の総仕上げとされた検定のときよりも、ページ数にして全体で四割以上増えた。中でも算数と理科は七割近く多くなり、参考書のようだ。
背景には、学力の国際比較で日本の子どもが順位を下げているという焦りがある。自ら考え、解決する力に乏しく、やる気のなさが著しいという。本当であれば深刻だ。かつてのように世界トップ水準に学力を引き上げたい。教科書の厚みは、そうした期待が反映されたといえる。
まずは基礎知識の底上げを図る。例えば、五年生の算数では、ひし形や台形の面積の求め方が必修になった。六年生の社会では縄文時代が復活。国語では古文や漢文が登場した。家庭科で習うカレーライスの材料を、理科の食物連鎖につなげるような、教科をまたぐ内容も豊富に盛り込まれた。
重点が置かれたのは、習得した知識を活用して考えを表現したり、筋道を立てて問題を解決したりする力を伸ばすことだ。「まとめよう」「話し合おう」「発表しよう」といった言語活動を求める問いの多さにそれが表れている。以前に習った内容を確実に身につけさせようと、反復学習のコーナーも目立っている。
しかし、週五日制の下で、これほど天こ盛りの教科書をきちんと教えられるのか。
学習内容に授業時間が追いつかないとの指摘がすでにある。すべてを教えようとすると、消化不良を起こし、ついていけなくなる子どもが続出する恐れもある。先生には、子どもの理解に合わせ、学習内容を選び、組み立てる力量が求められる。
そのためには、子どもとじっくり向き合う“ゆとり”が先生には必要だ。調査や書類作りといった雑務に追われ、授業を計画したり、教材を研究したりする余裕さえないのが実情だという。先生の人数を増やしたり、少人数学級を編成したりして授業に専念できる環境づくりが大切だ。
教科書には自宅でできる理科の実験もあれば、街中で学べる社会科のテーマもある。家庭や地域の協力は力強い味方になる。先頭に立つ先生を社会全体で支えたい。
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