向こう十年間の農政の姿勢を示す食料・農業・農村基本計画は、食料自給率50%の大目標を掲げている。だが、温暖化対策の目標同様、具体策はよく見えない。地域戦略による補強が必要だ。
戦後農政を再び大転換させるという。経営意欲の高い担い手に農地や補助を集中する規模拡大路線から、戸別に農家を支援して、潜在的な意欲を引き出す、個を重視した農政に切り替える。
その上で、現在41%の食料自給率(カロリー換算)を50%に引き上げると基本計画はうたう。前政権の目標を5ポイント上回る。実現は容易なことではない。
政府が自給率アップのために鳴り物入りで導入を試みる農家の戸別補償制度さえ、目標達成にどう結び付けるのか、道筋が示されているとは言い難い。計画全体が未成熟という印象だ。その中で、比較的明快なのが、飼料米の増産だ。十年で生産量を八十倍に伸ばすという。飼料用米の栽培は手間がかからず、耕作放棄地対策にも直結する。国際的に食料事情が窮迫し、輸入飼料が高騰する中、畜産農家の期待も高い。
飼料用米を生産すると、戸別補償以外に、高い交付金が上乗せされる。飼料用米普及に必要なのは、需要と供給を結び付ける仕組みである。そしてその結び付け方は、地域によって異なるはずだ。
新基本計画のもう一つの柱、加工(二次)とサービス(三次)の機能を併せ持つ農業(一次)の「六次産業化」の在り方も、大都市が背後に控えた関東や東海と、米どころの東北とでは、おのずと違う。担い手への集中支援と戸別農家補償、この二者択一にこだわらず、地域の実情に応じて使い分けが可能な、政策の「複線化」が望ましい。
自給率アップのかぎは、地域連携の強化である。この際、新基本計画のもとで地方農政局ごとに、食料の生産、加工、流通などに関する地元のニーズや資源を洗い出し、お互いに活用し合えるような、地域戦略を立ててはどうか。
ことし中日農業賞の優秀賞に輝いた伊豆のワサビ生産者(40)は、静岡県全域で果物や野菜、花などを作る若手農業者、漁業者と「静岡のうりょく塾」を結成し、新たな特産品開発に乗り出した。農家単独ではなく、地域のネットワークによる「六次産業」のビジネスモデル、すなわち農業でもうける仕組みを提示できれば、後継者も増え、自給率向上への道もひらけてくるだろう。
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