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日本経済の足元を照らす日差しは着実に明るさを増してきた。多くの人がそれを実感できるよう、企業は設備投資と雇用の拡大に向けて踏み出すべき時を迎えつつある。
そんな現状を、きのう発表された日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)が映し出した。
大企業の製造業の景況感は4四半期連続で改善している。中国などアジア向けを中心とする輸出の好調を反映した。円相場の安定と株価の好調に加え、エコポイントなど個人消費を刺激する政策の効果も続いている。大企業の非製造業や、中堅・中小企業の景況感もよくなってきた。
半面、自律回復力を占う設備投資と雇用の動きは鈍い。大企業製造業の2010年度の設備投資計画は、記録的な落ち込みだった09年度とほぼ横ばい。下げ止まったものの、反転には至っていない。雇用は2月の統計で失業率がわずかに改善したが、就業者数の増加につながっていない。
それでも短観では、企業が抱える設備と雇用の過剰感が和らいでいることが明白になった。鉱工業生産は世界金融危機前の8割強の水準まで回復してきた。深手を負った輸出産業では、先進国向けの高級品を生産する設備が余っているが、新興国向けの安価な製品をつくる設備は足りていない。
景気の二番底が避けられ、予期せぬ異変がない限り、先行きも大丈夫そうだ。企業は過剰な警戒を解き、アジアの成長と連動しながら前向き姿勢に転じる時ではないか。
このところ明らかになった主要企業のトップ人事を見ても、昨年の守り一辺倒から打って変わって、国際派の起用や世代交代で「攻め」に出ようという状況判断を感じる。経営の新陳代謝を加速させ、世界経済の構造変化に即した新ビジョンを固め、設備や雇用を拡大させる前向きな循環を早く取り戻して欲しい。
一方で、話題を呼んだ大型再編の交渉が相次いで破談になっている。ビール、自動車、百貨店など業界の状況はさまざまであり、危機感に駆られた統合の判断がベストだったとは限らない。だが、一連の頓挫が景気一服の影響だとすれば気がかりだ。
回復へ向かう時期にこそ事業変革の苦しみが生きる。挑戦する意欲がいよいよ大事になるのではないか。
政府も、民間経済を後押しする政策の手綱を緩めてはいけない。地球温暖化防止に役立つグリーン経済への転換、福祉や教育を担う産業の育成、アジアとの融合を図る通商戦略の具体化など、課題は山積している。
鳩山政権には、新成長戦略の全体像や中期財政フレームを説得力あるものに仕上げ、国民が抱く経済運営能力への不安を一掃するよう求めたい。
テロの呪縛からロシアは逃れられないのか。そんな思いにすらかられる。独立運動と弾圧がお互いに過激化した果てに、抜き差しならない状況に陥ってしまっている。
通勤客であふれた首都モスクワの地下鉄で爆発が起き、ロシア南部の北カフカスでイスラム統一国家の樹立を目指す武装勢力が犯行声明を出した。2日後には北カフカスで治安機関を狙った爆破テロがあり、死者は二つの事件で50人を超えた。
2000年代の前半、チェチェン共和国の独立派イスラム武装勢力がロシア国内の劇場や学校で引き起こした大規模な無差別テロは記憶に新しい。
そのチェチェンでは、10年にわたる大規模な掃討の末に独立派武装勢力を抑え込んだとして、ロシアのメドベージェフ大統領が昨年4月に「対テロ作戦」の終了を宣言した。だが、今回のテロは、ロシアが今も深刻な脅威にさらされていることを示した。
実際、首都では04年から大きなテロがなかったものの、北カフカス一帯では発生件数が08年からの1年間でほぼ倍増している。
事態を深刻にしているのは、北カフカスの武装勢力の性格の変化だ。
ロシアからのチェチェン独立を求めていた勢力は、湾岸諸国などのイスラム過激主義の影響を受け、むしろ北カフカスにイスラム法に基づく統一国家の樹立を目指すテロ組織に変容した。
背景に、ロシア側による過剰な武力行使があることは否めない。多くの住民の犠牲や違法な長期拘束などの人権侵害がテロの土壌となったのは間違いない。ロシアで最も深刻な貧困や失業、地元政府の腐敗なども、武装勢力の過激化を促したようだ。
どんな理由であれ、無防備な市民を標的にするテロが許されるはずはない。しかし、ロシアが、これまでの強硬一本やりの対策を続けるだけで、こうした組織を完全に抑え込めるとも思えない。過酷な弾圧で住民が「自分たちの国」の実現に深く絶望すれば、自爆さえいとわずに「神の国」に傾斜する。そうなってしまえば、テロ撲滅はますます困難になる。
テロに効果的な対応ができず、さらに悪化するようなら、ロシアが課題とする経済の資源依存からの脱却や法治国家の建設なども大きくつまずく。
犯行声明を出した組織は、アフガニスタンなどのイスラム教徒らとの連帯や反米英、反イスラエルも掲げる。国際テロ組織アルカイダとのつながりが強まるようなことになっては、北カフカスが世界の火薬庫となる恐れも現実味を帯びる。
メドベージェフ大統領は最近ようやく、北カフカスでのひどい貧困や腐敗の改善が必要だと強調し始めている。言葉で終わらせてはならない。