郵貯の限度額引き上げをめぐる混乱は、鳩山由紀夫首相が亀井静香郵政改革担当相の主張に軍配を上げ収拾された。首相と民主党に定見がなければ、亀井氏にいつまでも引きずられてしまう。
首相は郵政改革法案をめぐっても腰がふらついた。郵貯などの限度額引き上げに難色を示す菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相らの主張に、いったんは耳を傾けたが、最後は一転して亀井案を採用した。
閣内対立の長期化を避けたかったのだろう。菅、仙谷両氏も、二千万円の限度額見直しもあり得ることを条件に妥協したようだ。
亀井氏が代表の国民新党は政権公約でドイツの民営化を失敗と断じ、米国の国営維持の姿を例示した。社民党とは持ち株、郵便事業、郵便局の三社を統合して親会社とし、政府が出資し国の関与を大幅に認めることでも一致した。
実質国営化を後ろ盾に限度額を引き上げれば、信用金庫などからゆうちょ銀行に資金が大量に移動し、民業を圧迫する。仙谷氏の懸念はそこにもある。
また、資金運用のノウハウに乏しいゆうちょ銀行が、国債を大量に引き受ける「国の財布」役を続けていては、かつてのように非効率な独立行政法人などに資金が流されかねない。地方経済を元気づける資金供給も頓挫し、国民利益が損なわれるだろう。
見直し案は郵便局はじめ日本郵政グループからの要望が幅広く反映された。郵貯の限度額引き上げはその象徴でもある。
一時は二百五十兆円を超えた郵貯は満期を迎えた定額貯金が民間の金融商品などへ流出が続いている。百五十兆円を下回ると郵便局経営が採算ラインを割り込むとされ、貯金量増大が期待できる限度額の引き上げは死活問題だ。
全国一万八千の旧特定局長らで組織する全国郵便局長会は国民新党にとり重要な選挙基盤。民主党も日本郵政グループ労組から郵政の規模縮小に歯止めをかけるよう限度額撤廃を迫られている。
見直し目的は国民利益なのに、結局は今夏の参院選目当てとしか思えないものだ。
民主党には五年前の郵政解散の際、郵貯限度額を五百万円に縮小し、郵政事業を民間の補完と位置づけた経緯がある。
首相は方針転換の説明責任を果たし、郵政事業の理念、役割を国民に語りかけるべきだ。無定見のままでは再び迷走の愚が繰り返されかねない。
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