鳩山由紀夫首相の元秘書の政治資金規正法違反事件は、初公判で即日結審した。母からの資金提供を首相は「知らなかった」で通したが、疑惑の封印を許さぬ国民の厳しい視線を自覚すべきだ。
鳩山首相の資金管理団体の政治資金収支報告書は、でたらめそのものだった。虚偽記載の罪に問われたのは総額約四億円分だ。
元秘書は起訴内容を認めたうえ、検察側が請求する証拠の採用にすべて同意したため、検察側が禁固二年を求刑し、審理はわずか一日で終結した。だが、それほど単純な事件なのか。
政治資金の原資には母親からの総額十二億六千万円にものぼる提供資金が含まれていた。検察側の冒頭陳述は「(母親は)自己の個人資産から側近を介して、毎月千五百万円を息子である鳩山議員に自由に使える資金として資金援助していた」と指摘した。
二〇〇二年ごろ、「鳩山家と近い立場」の人物が母親と相談した結果だという。首相自身がその事実を「一切、知らなかった」と否定し続けており、検察側のストーリーもそれをなぞった形だ。
毎月多額なカネをもらっていながら知らない−。本当なのかと、国民は素朴な疑問に感じている。国会では「子分に配るカネが必要だ」と首相が母親に“無心”していた疑惑も追及された。
贈与税を免れていたのでは、という“脱税”の疑念がくすぶる理由もそこにある。東京地検は首相に対し、上申書の提出だけで済ませたが、首相への“配慮”がなかったか。捜査は十分に尽くされたといえるだろうか。
多額な株売却益の申告漏れなどもあった。鳩山首相をめぐるカネはあまりに不透明で、深刻な政治不信を招いている。
資産家ゆえの金銭感覚のマヒというより、もはや政治家としての資質や発言への誠意も疑問視されている。首相としての統治能力さえ問われている状態だ。
支持率が内閣発足当初の70%台から30%台へと急落したのも、その表れというべきだ。十二億円ものカネを何に使ったのか。早く使途を公表しないと、さらなる支持率低下となって、追い打ちをかけることになろう。
不起訴とされた首相に対する疑惑は、市民団体による検察審査会への申し立てという形でも表れている。その結果が「不起訴不当」ならば、検察に再捜査が要求される。市民がどう判断するか予断を許さない。
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