中国製ギョーザの中毒事件で二十六日、中国公安当局が容疑者を拘束した。二年前の事件は日本と中国両国の相互不信をも増大させた。事件の情報を公開することが、不信感の解消に欠かせない。
二〇〇八年一月に発覚した事件では五歳の女の子が一時、重体になるなど深刻な被害が出て、日本中がパニックに陥った。店頭からは冷凍製品のみならず中国食品が撤去され、北京五輪を控えた中国のイメージを大きく損なった。
ギョーザの製造元である天洋食品(河北省)の元臨時職員(36)は待遇への不満から殺虫剤を混入させたという。捜査の進展で、ひとまず安心したが、容疑者特定に二年も費やしたのは残念というほかない。
中国政府は発覚直後こそ「大変遺憾だ」(何亜非外務次官補、肩書は当時。以下同じ)と責任を認めた。しかし、その後、捜査進展を待たずに中国で毒物が混入された可能性を「大変小さい」(魏伝忠国家品質監督検査検疫総局副総局長)、「極めて低い」(余新民公安省刑事偵査局副局長)と事実上、否定する記者会見をした。
日本で混入された可能性は低いとする警察庁も反論し、日中捜査当局の対立が表面化した。このため両国のメディアやインターネットには、相手側を非難する意見があふれ、相互不信が深まった。
その後、福田康夫首相の強い要請を受け、胡錦濤国家主席の指示で中国側の捜査が本格化した。中国でも問題のギョーザによる中毒が発生したことがわかり、ようやく容疑者の特定につながった。
しかし、事件を両国のメンツと国民感情が絡んだ政治、外交問題にした傷は、いまだに深い。
中国当局には事件を簡単な発表や厳罰で終わらせず動機の解明、会社の対応、捜査経過に至る詳細な情報の開示を求めたい。
事件の再発防止や食品安全の確保にとどまらず偶発的事件が日中関係を大きく揺るがす事態を防ぐことに役立つはずだ。その後も中国ではメラミン入り牛乳など食品安全事件が多発しており、国民の関心も高いに違いない。
今月に開かれた国会に当たる全国人民代表大会で、楊潔〓外相が日本との全面的な関係の発展を求めた直後に、トゲになっていた事件の容疑者が拘束された。
中国の国情からみて偶然とは思えない。鳩山政権は中国側からのサインを受け止め、東シナ海ガス田共同開発など停滞する外交課題の打開に知恵を出すときだ。
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