新年度が始まります。さあ、心機一転、といきたいところですが、空気が重たい。思うに、二大政党の体たらくが政治と国民の溝を押し広げています。
いきなり引用で恐縮ですが、みんなの党の代表、渡辺喜美氏が、この人らしい毒のある表現で言ったり書いたりしています。
「もう、自民党があの調子なんですから。民主党があの体たらくなんですから。第三極がどんどんできたらいい」「自民党はグチャグチャ。崩壊過程に入った」「民主党は『政権交代。』がピークだった。これからは没落の一途を辿(たど)るであろう。民主党は政権交代のための政党だったからである」
◆既視感ある風景
この先の政治家人生を政界再編にかける人です。言葉にもおのずからバイアスがかかります。
自民党が壊れ、民主党が壊れて大再編のチャンスがやってくる。そして民主を壊すのは純化路線を真骨頂とする小沢一郎氏だ−というのが渡辺流の政局展望。
目新しい話でなく聞き飽きた感もある再編願望論ですが、そんなことにはならないとも言い切れないのが今の政治状況です。
鳩山内閣の手掛けた新年度予算が、要した日数でいえば、戦後五番目という早さで成立しました。
政治とカネ問題、政策の迷走で内閣支持率は危険水域にあるのになぜやすやすと…。自民党内は、見せ場もつくれず政権を攻めあぐねる執行部批判でざわつきます。
すでに離党した国会議員は鳩山邦夫氏を含め六人。谷垣禎一総裁を批判して「新党」へ腹をくくったらしい与謝野馨氏、世論調査で首相候補ナンバーワンに擬せられて意気揚々の舛添要一氏らが、決起の機をうかがいます。
いつか見た景色です。かつて細川政権下で離党者の続出した野党自民の姿が思い出されます。
◆袋小路どう脱出
既視感のある風景といえば民主党の側もです。小沢幹事長を批判した副幹事長の「解任」騒ぎ。
党の会議にも出ず、役員でありながら小沢執行部を党外で批判したというのが、解任理由でした。
「言論封じ」批判を浴びて解任は撤回されますが、騒ぎは党の支持率低下を招いています。
小沢氏についてまわる「側近政治」を思い出させます。側近たちが競うように小沢氏の意を忖度(そんたく)して動く。それが裏目に出ました。問題の副幹事長は党批判を続け、党は無視を決め込む。それがまた閉鎖性を印象づける悪循環。
政治とカネの古い体質を引きずる小沢氏に、違和感を持つ人は党に少なくありません。何らかのけじめがつくまでは、すっきりしない状況が続くのでしょう。
そしてこの党も親小沢と非小沢に二分されていくとしたら…。小沢氏が率いる政党をいくつも壊すのを見てきた渡辺喜美氏が、小沢氏に再編起爆の役を期待するのもわからないではありません。
でも、二大政党のこんな体たらくに、国民があきれていることを忘れるわけにはいきません。
心配事や不安をよそに政治が緊張を欠いては、迷惑するのは国民です。出直しへ、リセットボタンを押してみたくもなります。
話題を変えます。政府予算の成立を受けて、民主党マニフェストの見直し論が出てきています。
理由は明快。鳩山首相も小沢氏も、政権をとれば何とでもなると総選挙で公言してきた財源が、実は何ともならないほど厳しいからです。
マニフェスト通りに政策を実施するお金がない。このままでは行き詰まってしまう、というわけです。政権は袋小路に入りつつあります。
例えば新年度実施にこぎ着けた目玉政策の子ども手当、次年度以降のアテはないままです。社会保障の財源確保もデフレ不況下のこの税収減で、ままなりません。
逆立ちしても無理ならば率直に「できない」と認めて、責任の所在を明らかにして謝罪するしかありません。もちろん安易な撤回で良しとするのは「マニフェスト詐欺」批判を免れませんけれど。
それを許すかどうかは、国民が判断することなのです。
で、首相の選挙公約だった米軍普天間飛行場の「国外・県外」移設はどうでしょう。
さんざん期待させて「県内」では沖縄県民が怒るのも当たり前です。その県内移設案もどうやら四面楚歌(そか)。首相の「覚悟」が空振りに終わる恐れも出てきています。
◆捨て身の気迫を
首相と民主党に念を押しておきますが、トップの首のすげ替えでともかくは政権維持を、というのなら、旧政権と変わりません。
リセットボタンを押す覚悟を求めます。説明は不要でしょう。いざとなったら出直し選挙を。いま必要なのは捨て身の気迫です。
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