HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17861 Content-Type: text/html ETag: "4335dd-45c5-e87353c0" Cache-Control: max-age=1 Expires: Mon, 29 Mar 2010 02:21:42 GMT Date: Mon, 29 Mar 2010 02:21:41 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年3月29日(月)付

印刷

 災難に遭われたご家族には申し訳ないが、「そういえばギョーザがあった」というのが一報を聞いての思いである。真っ先に注文していたその前菜が、デザート杏仁(あんにん)豆腐の後で出てきた感じに近い▼中国製冷凍ギョーザで日本の10人が中毒を起こした事件が、発覚から2年を過ぎて急転した。中国当局が捕まえた製造元の元従業員は、会社の待遇に不満を募らせ、殺虫剤を注射器で入れたと伝えられる▼そんなことだろうとは思いつつ、中国側がしっかり調べず、うやむやに終わるのではと案じてもいた。報奨金で情報提供を呼びかけたそうだ。日本にわだかまる中国産への不信、国内で高まる食への懸念を意識しての執念だろう▼事件は個人のうっぷん晴らしで、日本を狙ったものではないという。あっさりした結末だが、一件落着の爽快(そうかい)には遠い。低賃金でこき使う体質が変わらない限り、労働者の怒りがいつどんな形で爆発するか分からない。安いというだけで、そういう企業や産地に食を託す危うさを思う▼勝見洋一さんの『中国料理の迷宮』(朝日文庫)によると、数ある点心(軽食)の中でも、家庭の味といえばやはりギョーザらしい。祝い事があれば総出で作る。正月には洗った硬貨を入れて金運や健康を占うという▼縁起物に忍び込んだ悪意は海を渡り、他国の一家だんらんを暗転させた。地球上を食材が行き交う時代、せめて食べる前に、五感を駆使して安全を確かめたい。すなわち動物的な習いに立ち返ること。悲しいかな「飽食の迷宮」で身を守るすべである。

PR情報