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冷戦の遺物とも言うべき大量の戦略核弾頭を減らす新条約に、米国とロシアが合意した。オバマ米大統領が「核のない世界」を目指すと宣言した昨年4月5日のプラハ演説から約1年。署名式は8日、米ロ首脳がそろってプラハで行われる。
これで急速に世界が核ゼロへと動くわけではない。だが、あの歴史的な演説で世界に発した言葉を行動に移していこうとする、オバマ氏の並々ならぬ意欲を感じさせる。
新条約で米ロは、配備する戦略核弾頭をそれぞれ1550発以下に減らす。大陸間弾道ミサイルなどの運搬手段の保有数は、未配備分も含めて計800を上限にする。両国は発効から7年以内に削減目標を達成しなければならない。
昨年12月に失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)では弾頭の上限が6千発、運搬手段は計1600だった。新条約でもなお、世界の主要都市を何度も破壊できるほどの過剰装備ではあるが、安全保障戦略での核の役割を減らしていくための、重要な一歩である。
条約の発効には、米ロ双方の議会による批准承認が必要だ。過去には、批准承認がうまくいかず、未発効に終わった核軍備管理条約がふたつもある。米ロの議会は早期に批准を承認し、さらなる削減を促すべきである。
プラハ演説でオバマ氏は、米ロだけでなく、保有国による多国間核軍縮を提言した。核不拡散条約(NPT)体制の強化、包括的核実験禁止条約の発効、兵器用核分裂物質の生産禁止条約の締結の必要性も強調した。「プラハ構想」とも呼ばれる、核軍縮・不拡散政策の数々である。
その基本線は、核保有国は軍縮を進め、持たない国は非核を継続して核ゼロをめざす。同時に核の闇市場などを封じ込めて、テロ集団の手に核が渡らないようにする――というものだ。
オバマ氏の呼びかけで4月12、13日に、核テロ防止を主眼にした核保安サミットが開催される。5月には、5年に一度のNPT再検討会議がある。今回の米ロ条約合意を足場にして、「プラハ構想」を着実に前進させていかなければならない。
日米はこの秋に向けて同盟の「深化」を協議していく。そのなかでも核政策での協力はとても重要なテーマとなろう。核拡散、核テロ防止のための国際協調の幅をどう広めていくか。核実験した北朝鮮、軍事費を増大させる中国を抱える北東アジアにおいて、核の役割縮小に必要な地域的安全保障をどう組み立てていくか。
日米が協力してこそ効果が高まる課題が、たくさんある。日本も積極的に提案し、「プラハ構想」前進の主要なエンジンとなっていくべきである。
「中国当局の大変な努力の結果、ここまでこぎ着けていただいた」。中国製冷凍ギョーザ中毒事件で容疑者が中国の捜査当局に拘束されたのを受けて、岡田克也外相はこう語った。
被害の判明から2年余り、ずっと日中関係のトゲとなっていた事件の捜査進展に対して、関係者から安堵(あんど)の声があがるのは自然な反応だろう。
「警察当局が怠らず入念に捜査した結果だ」という中国外務省の説明も、その通りに違いない。とはいえ、真相解明にはほど遠い。また、食の安全という問題もこれで解決したわけではない。とても一件落着と納得できるものではない。
拘束されたのは、ギョーザ製造元の「天洋食品」で臨時工員をしていた男性だ。中国国営新華社通信によれば、給与と他の社員に対して不満があり、報復するため、毒物をギョーザに混入したという。
日中関係のなかで、日本側が東シナ海の開発問題と並ぶほどに重視してきたギョーザ事件の捜査の節目にしては、ずいぶん簡単な報道ぶりだ。共産党中央機関紙の人民日報は容疑者拘束の記事を掲載しなかった。
中国側が報道を抑制的にしているのは、外交問題にかかわるからだけでなく、事件そのものに社会のゆがみが色濃く反映しているからだろう。
中国では、低賃金で長時間労働させる企業に対して、農民など出稼ぎ労働者が怒りや不満を直接ぶちまける例が後を絶たない。不当な扱いを法的に受け止める制度が整っていないからだ。
天洋食品でも、多くの臨時工員が頻繁な賃金カットやリストラで不満をためていた。ストライキも起きていた。
中国側は捜査内容を詳細に発表することが、暗部の公表につながり、社会の安定を損ねると思っているのではないだろうか。しかし、ゆがみをただすには、都合の悪い、みっともないことに向き合わなければなるまい。
また、今回のように、不満が直ちに品質を損ねることにつながるという簡単な説明を、内外の消費者は素直に受け入れることはとてもできない。
過酷な条件で労働者を使い、安価な商品を輸出して成長する。こんな中国の成長パターンは当然ひずみをはらむ。にもかかわらず、日本側は低価格に目を奪われ、安易に中国食品を輸入してきたのではないか。また、食品の安全確保を中国側まかせにしすぎていなかったか。作り手の実情を見ないまま消費する危うさを、ギョーザ事件は教訓として残した。
事件を受けて、日中間では閣僚級の枠組みとして「日中食品安全推進イニシアチブ」に合意している。それを当局者が推進するのは当然だが、支えになるのは生産や販売、消費にかかわる人々の相互信頼関係だ。