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菅家さん無罪―誤判防ぐ仕組み作りを

 「足利事件」の再審裁判で、宇都宮地裁は菅家利和さん(63)に無罪判決を言い渡した。当時4歳の女児を殺害したなどとして逮捕されてから、菅家さんは17年半、自由を奪われた。裁判長は異例の謝罪を行ったが、償うことのできない重い年月だ。

 菅家さんが「犯人」とされたために、結果的に真犯人はわからないまま、事件は時効を迎えた。殺害された女児や家族らの無念も計り知れない。

 なぜ、こんな誤判が起きたのか。徹底した検証が必要である。

 菅家さんが有罪とされたのは、いったん自白したこと、犯人のものとされるDNA型と菅家さんの型が「一致」したことが根拠だった。再審ではこのDNA型鑑定に証拠能力がなく、自白も信用性が認められないとした。

 冤罪の原因は自白偏重と証拠の不十分な吟味に尽きる。足利事件はその典型だ。

 自白について、菅家さんは長時間の調べに「疲れ果てて認めてしまった」と言っている。取り調べのつらさに耐えられず、捜査員に迎合してしまったのだろう。DNA型は、当時は「1千人に1.2人」を特定できる程度の精度だったが、間違っていると、多くの人が考えなかった。

 捜査当局には自白に引きずられず、客観的証拠と付き合わせる基本を徹底してほしい。いま、DNA型鑑定の精度は極めて高くなった。しかし過信してはならない。標本採取には細心の注意が必要だし、将来の再鑑定に備えて厳重な管理も欠かせない。殺人罪などの時効が廃止される見通しの状況下では、なおさらのことだ。

 そのうえで、取り調べを録音・録画する可視化を法制化することが一刻も早く必要だ。取り調べに弁護人が同席することも検討すべきだ。

 冤罪事件は後を絶たない。再発防止のため、警察庁、最高検は検証作業をしている。足利事件についても近く公表される。それ自体は評価できるが、内部の調査だ。裁判所も捜査の誤りを見過ごした。その問題点を「再審」の枠組みだけで検証するのは難しい。

 日本弁護士連合会は今回の判決を前に、調査委員会の設置を求める意見書を出した。誤判の原因究明とともに、防止のための方策を提言するための第三者による独立した公的機関として提案している。法務省、最高裁はきちんと受け止め、法曹三者で検討を始めるべきである。国会や政党も設置に向け動き出してほしい。

 刑事裁判には裁判員制度が導入された。市民の新鮮な感覚で冤罪を防止しようという期待もこもる。それでも裁判員が間違わない保証はない。冤罪防止のための新たな仕組みづくりは急務である。それは菅家さんと、すべての冤罪被害者への最大の償いでもある。

歴代社長起訴―JR西の体質にも迫れ

 前代未聞の判断は、悲惨な大事故の背景となった経営体質に対する厳しい問いかけだといえよう。

 5年前のJR宝塚線(福知山線)脱線事故をめぐり、神戸第一検察審査会はJR西日本の歴代社長3人を強制的に起訴すべきだと議決した。

 昨年から、審査会が起訴すべきだと2回議決すると必ず起訴されることになった。兵庫県明石市で起きた歩道橋事故で当時の明石署副署長が強制起訴されるのに続き、不起訴という検察官の判断を市民の代表が覆した。

 宝塚線事故では、神戸地検は現場付近を急なカーブに変えた当時に鉄道本部長だった山崎正夫前社長だけを業務上過失致死傷罪で起訴。付近に自動列車停止装置(ATS)を整備しなかった責任を問うた。

 検察審査会は、井手正敬(まさたか)氏と南谷(なんや)昌二郎氏、垣内剛氏の歴代トップ3人も現場の危険性を認識でき、ATS整備を指示すべきだったと判断した。

 この起訴には批判もある。当日の警備にもかかわったとされる明石署副署長と同列に扱えるのか。業務上過失致死傷罪で企業の責任を問うのはどうか。刑法の解釈を法律家ではない人々の判断で塗り替えていいのか。原因の解明より責任の追及を優先することにならないか。

 うなずける点もあるが、ここは2回に及ぶ審査会の判断を尊重したい。山崎氏1人の起訴なら、ATSの未整備だけを問うことになる。3人の刑事責任の有無を問うことになれば、JR西日本があの大事故を引き起こすに至った背景や経営が抱えてきた問題も解明される可能性が出てくる。

 3人の元社長は法廷でどう語るのか。なかでも井手氏は、国鉄が分割・民営化された1987年から20年近くにわたってJR西日本で副社長、社長、会長、相談役を歴任した。私鉄王国と呼ばれた関西で、ダイヤの高速化によって競争力を強め、経営基盤を築き上げた。

 しかし、この成功は安全性を犠牲にしていたのではないか。事故はそうした疑念を生んだ。収益を重視するあまり、安全への投資が後回しにされ、それがATS整備の遅れにつながったのではないかというわけだ。

 この点について、取締役会や経営会議などの場で井手氏はどう発言し、どんな議論が交わされたのか。法廷で詳細を明らかにしてほしい。

 JR西日本が設けた第三者機関は昨年秋、事故の背景には井手氏がつくりあげた独裁的な経営体質があるとする報告書をまとめた。

 いまの佐々木隆之社長は「上意下達」の企業風土の改革を掲げる。改革は叫ばれ続けたが実現したとは言い難い。言葉だけに終わらせないためにも、真実の解明が必要とされる。

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