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歴史の見方の違いを互いに理解し合い、認識を近づけることの難しさと苦労を改めて思う。ましてそれが支配と被支配の関係にあった隣国同士なら、なおさらのことだろう。
日本と韓国の学者による第2期歴史共同研究の報告書が発表された。約3年をかけてまとめた。今回は新たに教科書に関する小グループもでき、作り方や記述が初めて検討された。
様々な対立や相互批判が率直に記されている。
今年で署名100年になる韓国併合条約について、韓国側が「『不法』だったと明記した(日本の)教科書はない」と指摘すると、日本側は「併合が非合法という韓国学界の主張は、欧米など国際法学者の多くが支持するには至っていない」と主張した。
韓国の教科書は戦後日本の憲法や村山首相談話などを記述していない、という日本側の指摘に対しては、韓国側が「特定のテーマが扱われていないという批判は皮相的な分析でしかない」と反論する、といった具合だ。
この共同研究はもともと、2001年の教科書問題や小泉純一郎首相の靖国参拝をきっかけに悪化した両国関係の改善策の意味を込めて両政府の肝いりで始まった。
第2期となる今回の研究は安倍政権と盧武鉉政権の時に始まった。両政権のナショナリズムへの傾斜が研究の場に影響した面もあるだろう。双方の学者たちに「日の丸」や「太極旗」を背負わせることにもなった。
しかし一見、不毛な言い合いにも見える研究にも大きな意味はある。互いの認識の違いを受け止め、克服していく必要性を教えてくれるからだ。
共同研究は今後もぜひ継続させたい。ただし、それをより意義のあるものにするために、もっと大胆な工夫をしてみてはどうか。
「日本側」「韓国側」の枠を超え、理性的に研究を深めるには、米国や中国など他国の学者に参加してもらうのも一つの手だ。この分野を研究するのは日韓の学者だけではない。テーマを決め、国籍にこだわらず、優れた専門家に研究を委ねることも考えていい。
また、グローバル時代に、それぞれの国の歴史、ナショナルヒストリーを比較し、溝を埋めようとする発想にも限界がある。経済も情報も人も国境を越えて縦横に行き交う新しい時代を生きていく手がかりとして必要なのは「国民の物語」とは別の歴史だろう。本来、歴史学者の使命も国籍にとらわれないで歴史の事実と意味づけを追求することだ。
まだ日韓の間柄はそこまで成熟していないのかもしれない。だが、これからのアジアで両国関係はますます重要になる。歴史をともに考えることをやめるわけにはいかない。
防衛省・自衛隊で物品調達にからむ不正疑惑がまたも発覚した。
航空自衛隊が発注したオフィス家具の入札をめぐり、公正取引委員会は空自側が談合を主導した疑いがあるとして、近く北沢俊美防衛相に官製談合防止法に基づく改善措置を求める。
発注部門の担当者が入札前に落札予定業者を決め、その業者に他社製品を混ぜたリストを作らせ、形だけの入札をしていた。
談合を指摘された6社のうち5社には、この10年で8人の空自OBが再就職していた。発注の配分はOB受け入れとの引き換えだった疑いがある。
しかも時期は、2006年に旧防衛施設庁の発注工事に絡む官製談合が摘発された期間と重なる。昨年、省内の監察が入ると、担当者から業者に連絡し、口裏合わせを依頼したともいう。
あまりに露骨で悪質である。北沢防衛相が「絵に描いたような官製談合」と断じたのは当然だ。
業者が高値で受注し、見返りに天下り先を提供する。空自は再就職先を確保するために、税金を無駄遣いしていたと非難されても仕方がない。
防衛省では近年、旧調達実施本部の背任、旧施設庁の官製談合、防衛事務次官による収賄などの不祥事が相次いできた。そのたびに企業や出入り業者との癒着の根絶が叫ばれたが、一向に改善されていない。
防衛省の調達ルートには、航空機や艦艇などの大型装備品を省中央で買いつける中央調達(07年度は約1.3兆円)と、各部隊で買いつける地方調達(同約7千億円)の二つがある。
地方調達は部品や修理など小回りのきく物品調達のためにとの趣旨で認められてきた。だが省中央の監視の目が届きにくく、制服組と業者との癒着の温床にもなってきた。そのために80年代から何度か両ルートの統合が試みられてきたが、制服組の猛烈な抵抗で頓挫してきた。
なかでも空自の場合は、部隊ごとに調達する陸海と違い、第1補給処が全国の部隊の窓口となって事務用品などを一括発注しており、業者にとってより利点の大きい仕組みになっていた。
背景にある自衛官の再就職問題も根が深い。体力が必要な自衛官は大半が50歳代半ばで退職する。その再就職先に防衛関連企業が多いのが実態だ。
再就職時の審査制度を設けたり、一定の自粛期間を設けたりしてきたものの、十分な歯止めにはなっていない。他の国家公務員並みの年齢まで働けるようにするなどの方策も必要だ。
防衛省は事件の検証チームをつくった。組織的な関与の有無などの解明を急ぐとともに、今度こそ徹底した再発防止策を打ち出さなければならない。このままでは巨額の防衛予算全体が、疑惑の目で見られることになる。