郵政改革法案の骨子が発表された。見直しは国民の利便性向上が目的で、経営効率化が欠かせぬが、それが抜け落ちている。実質国有化や郵政関係者のための見直しではツケが国民に回されかねない。
「合理化案も示さず国民に負担を求めては理解が得られない」。法案は策定段階で与党議員からでさえ異論が噴出した。
小泉民営化路線で軽視された郵政の公益性、地域性の是正が法案の最大の目的とされる。その方針に沿い、郵便局を年金や旅券事務などを扱う行政サービスの拠点に位置づけたが、一方で貯金と簡易生命保険に全国一律サービスを課す見返りとして、これまで納めてきた年五百億円の消費税免除も盛り込んだ。これこそ国民へのツケ回しに等しい。
全国二万四千の郵便局のうち、一万八千は社員三人前後の小さな旧特定局だ。局長は公募制に切り替わったが、今なお二〜三割は事実上の世襲が続き、その局長が所有する局舎の借り上げ料は近隣に比べ二割近くも高いという。
なぜ鳩山政権は経営効率化に手をつけないのか。既得権益とされる実態から目をそらしては改革とはとても言い難い。
法案とは別に非正規社員十万人の正社員化も打ち出した。派遣切りなどで揺れる雇用関係の安定化自体に異論はないが、年間三千億円余分にかかる人件費をどう捻出(ねんしゅつ)するのか。効率の高い店舗展開など、徹底した経営の効率化に努め、自らその費用を生み出す労苦に挑むべきだ。安易に国民負担に頼ることがあってはならない。
経営形態は持ち株・郵便・郵便局三社を統合して親会社とし、政府が重要決議を拒める三分の一超を出資、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を子会社化する。民どころか限りなく官に近い。郵貯限度額も二千万円に引き上げ、政府の関与を強めることで金融二社から郵便局への手数料を増やし、経営を安定させる。これが見直しの狙いだ。
国民新党や民主党の支持基盤である全国郵便局長会からの要望が広く反映されている。
これでは郵貯肥大化の警戒心をあおり、信用金庫などと協力し郵貯資金を地域に還流させる目標が怪しくなる。運用が国債に偏り「国の金庫」としての役割も変わらないだろう。
先細りの郵便事業を直視すれば改革は自らの痛みを避けて通れないはずだ。かつてのように一般会計からの財政支援にもたれ掛かる時代に舞い戻ってはならない。
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