HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17863 Content-Type: text/html ETag: "2503f1-45c7-f2a96fc0" Cache-Control: max-age=1 Expires: Wed, 24 Mar 2010 23:21:38 GMT Date: Wed, 24 Mar 2010 23:21:37 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
人生には二つの穴があるという。お金を入れる穴と、出す穴だそうだ。多くの人は、入れる穴の直径より、出す穴を小さめにして暮らしているのだと、人間通で知られた文学者の高橋義孝が書いている▼世間には、入れる穴を広げる金もうけこそ人生だと考える人がいる。片や、出す穴をできるだけ大きくして、お金を使うのが人生だと考える人もいる。人生色々だが、入れる穴が小さいのに、出す穴ばかりが大きければ、これは早晩行き詰まる▼さて、この国の穴はどうだろう。きのう成立した新年度予算の一般会計総額は過去最高の92兆円にのぼる。だが税収は37兆円。入れる穴は出す穴の半分もない。新規の国債は44兆円。借金が税収より多いのは、当初予算では戦後初という。数字はどれも空恐ろしい▼今日をしのぐ借金は、子や孫の代を質草にした借り入れだ。いきおい次世代は、先の難儀を予想して身構える。ある大学生調査では、退職後に頼れるのは「貯蓄など自助努力の資産」だと3分の2が答えていた。「公的年金」は2割に満たなかった▼若者に老後を聞くのも無粋だが、退職後の生活費の準備をいつから始めるかも聞いたそうだ。8割が学生時代から30代までにと答えたという。何だか彼らに申し訳なくなる▼国家財政の話ではないが、あれやこれやと事を後世に押しつける風潮に、明治の毒舌家斎藤緑雨はかみついた。「なりたくなきは後世なるかな。後世はまさに、塵芥(じんかい)掃除の請負所の如(ごと)くなるべし」。ツケを回さぬための議論は、もう待ったなしである。