HTTP/1.1 200 OK Date: Tue, 23 Mar 2010 23:16:19 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:オバマ医療改革 悩める超大国の『変革』:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

オバマ医療改革 悩める超大国の『変革』

2010年3月24日

 国民皆保険に道を開く医療改革法案が米下院を通過し、オバマ大統領最大の公約が実現する。払った代償は大きいが、「国のかたち」をも問う歴史的一歩を踏み出した成果を評価したい。

 「これはアメリカ国民にとっての勝利だ」−。医療改革法案の下院可決後、オバマ大統領が述べた言葉に、歴史的達成感がにじむ。

 先進国の中で、国内総生産(GDP)比16%という最高の医療費を費やしながら、国民の六人に一人が無保険者という数字が米国の医療事情を象徴する。医療機関、製薬、保険会社が提供する高価な医療サービスと、その負担に耐えられず無保険化していく低中所得者層、その医療現場の悲惨な実態は、映画などでも紹介され国際的波紋を広げた。

 今回の医療改革法案の軸は、既存の低所得者向け公的医療扶助制度(メディケイド)の適用対象を拡大する一方、低中所得者層を中心に保険加入を可能にする補助金、税額控除を導入する点だ。四千六百万人とされる無保険者の三千二百万人を救済できるとされる。

 国家建設の理念を個人の自由と責任に置く米国では、保守勢力から「社会主義的」と批判されがちな国民皆保険制度は終始不評だった。クリントン元政権時代の挫折は現政権のトラウマでもあった。

 共和党勢力との交渉は熾烈(しれつ)を極めた。当初の目標だった公的保険導入は早々と消え、代わって「保険取引所」を新設し、民間保険会社の競争を通じて安価な保険提供を図る実験的な方法に止(とど)まった。

 四年後の本格実施から十年間で九千四百億ドル(約八十五兆円)とされる財源は、高額保険商品や高額所得者に対する増税、無駄の削減で賄うとされるが、現実的な裏付けが十分とはいえない。

 今後最大の懸念は、土壇場でオバマ氏が自ら演じた力ずくの政治手法だ。「米国の融和」とは裏腹の強引な議会戦術は、共和党との溝を決定的にした。秋の中間選挙を控え残されたしこりは大きい。

 高い代償を払いつつも、オバマ政権は歴代政権が実現できなかった国民皆保険制度の実現に道を開いた。複雑なテーマを平明に語る説明能力と、一貫した高い理念があってこその成果だ。

 国際社会で、黒白が単純に割り切れるテーマは稀(まれ)だ。核軍縮やイスラムとの対話もしかりだ。米国が内政で示した変革が、国際社会の変革でも通じるか、真価が問われるのはこれからだ。

 

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