結婚しても希望すれば、従来の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」の法案提出が、暗礁に乗り上げている。国民新党の亀井静香金融相が「反対」だからだ。働く女性らの視点を大切に考えたい。
人の生き方も、働き方も多様な時代になっている。働く女性の割合は41・7%にのぼる。だが、結婚すれば、夫婦は戸籍で「同姓」にすることが、民法で義務付けられている。実際には女性が改姓するケースが約96%を占めているのが現状だ。
姓の変更により、別人と思われ、不都合を覚える人もいる。知人らとの人間関係が疎遠になることもある。働く女性らの場合、今まで築いてきた業績や信用が、改姓により“切断”され、不利益をこうむるケースも多かろう。
職場などで、通称として旧姓を名乗る人も多いが、戸籍名しか認められない職業や会社もある。医師や看護師などは戸籍名で登録し、美容師や調理師なども旧姓使用は原則不可だ。
民法改正案はあくまで、夫婦別姓を希望する人に限る「選択的」なもので、すべての人が別姓になるわけではない。子どもは夫婦どちらかの姓に統一する。法制審議会は一九九六年に同制度導入を答申していたが、自民党中心の政権下では反対論が強かった。
民主党は昨年、政策集で盛り込み、千葉景子法相も積極的に今月中の閣議決定を目指していた。だが、閣僚の亀井氏が反対姿勢を崩しておらず、法案提出さえ困難な情勢に置かれている。
反対論は「家族のきずなが壊れる」「日本の伝統的な家族像と異なる」などの意見に集約されよう。現行の家族と法のありようが定着しているというわけだ。
だが、主な国では、法律で夫婦同姓を強制しているのは日本だけだ。各国で家族のきずなが崩壊しているとはいえまい。国連の女性差別撤廃委員会も日本に改正を求めてもいる。
専門家によれば、歴史的にみても、江戸時代の武家は「別姓」で、明治初期にも政府は「夫婦別姓」としていた。「同姓」となったのは、明治民法後から百年余りにすぎない。
内閣府の世論調査では、六十代未満は「選択的別姓」について、「容認」が40%を超え、「反対」を上回っている。
今回の民法改正案には、相続の婚外子差別撤廃なども含まれている。前向きの議論をもっと進めてほしい。
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