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【社説】

週のはじめに考える 核でなく非核の傘を

2010年3月21日

 核兵器の脅威と恐怖は冷戦時代とは姿を変え、核テロの可能性、また核拡散という形で広がっています。被爆国・日本の発信力が今こそ必要です。

 背筋の寒くなるような話を最近ある外交家から聞きました。パキスタンやアフガニスタンをよく知る人で、今一番こわいのはパキスタンの核兵器がテロ組織に奪われることで、可能性ゼロの話ではないというのです。

◆歴史の流れ変える攻撃

 相前後して今年初め、米紙が伝えていました。米中央情報局(CIA)を含む情報機関の長がそろって、ある上院議員に報告しました。(1)米国に対するテロ攻撃は数年以内にありそうだ(2)国際テロ組織アルカイダが行う場合、歴史の流れを変えるような攻撃になるだろう―と。その攻撃とは核爆弾を意味します。

 実際、パキスタンの政情はよくありません。昨年、武装勢力タリバンは首都イスラマバードの北百キロにまで迫りました。軍や情報機関施設への襲撃もありました。内通者なしではできないことで、核奪取の不安は強く潜在します。

 パキスタンの核兵器の保管場所はもちろん秘密なのですが、一説では金庫のような特殊コンテナ内に保管され、位置を知られないよう時々移動させるそうです。

 国際情報戦の中のことですから事実関係は確かめようもないのですが、もしもテロ組織が核兵器を持つ、また用いるのなら世界は想像不能の混乱に陥るでしょう。

 昨年、チェコのプラハでオバマ大統領が「核兵器なき世界」の平和演説をして喝采(かっさい)を浴びました。長く米ロの核に脅(おび)えてきた人々に希望をもたらしたのです。オバマ演説の下敷きはキッシンジャー元国務長官らいわゆる米国の四賢人が前から唱えていたことで、要するに米国はまず忍び寄る核テロに備えているのです。

◆二重基準という不公平

 賢人らはこの春ドイツに飛びました。欧州の賢人ワイツゼッカー元大統領は「核兵器を徐々に減らそう」と応じました。核抑止力は認めつつ、合意と交渉で減らそうという現実的姿勢です。

 核廃絶の理念には大多数の国が賛成します。現実は進みません。理由は二つあります。一つは二重基準、ダブルスタンダードです。核を持つ国が核を持たない国に持つなというのは不公平であり、この状態は持たざる国に持とうという動機を持ち続けさせます。

 もう一つの理由は、二重基準論に関連しますが、もし世界諸国が核兵器廃絶を決めた時、それを裏切って秘密裏に核兵器をつくる国に対する備えの核兵器は誰が持つべきか、それが決まっていないことです。国連や国際原子力機関(IAEA)の名が想定されますが、まだ話し合うよりずっと前の段階です。それでも私たちは前へ進まねばなりません。 

 元長崎大学長で長く核廃絶運動に携わっている土山秀夫さんは非核兵器地帯の広がりを訴えています。米ソがしのぎを削った冷戦下ではまず南極、次いで中南米、南太平洋がそれぞれ非核兵器地帯となりました。どちらにもくみさずです。冷戦後は東南アジア、アフリカ、中央アジアが加わりました。中南米とアフリカ諸国の国際条約には五大核保有国が持ち込まずの保証を与えています。核の傘の牽制(けんせい)的空白、非核の青空です。悩んだのは中ロにはさまれたモンゴルでした。しかしソ連を離れた民主化後、一国だけの非核地帯宣言をしました。それがどれほど国民に安心感を与えたか。

 土山さんがずっと力説しているのは、北東アジア非核兵器地帯構想です。日本、韓国、北朝鮮を非核兵器地帯とし、核不使用を米ロ中が保証するスリー・プラス・スリー案で一九九六年に神奈川のNPO法人ピースデポが発表したものです。北朝鮮が核開発疑惑をもたれていたころです。北朝鮮の核と日韓を覆う米国の核の傘を同時になくす。難しいでしょうが、そういう外交を成し遂げることこそ、国家が平和を求め、国民を守るということではないでしょうか。

◆思想家ラッセルの警告

 これをただの理想だと言う人は英国の数学者で思想家のバートランド・ラッセルの言葉を思い出してほしい。「二万トンの爆弾一個と五トンの爆弾四千個とは違う」。核兵器のもつ非人道性に対する鋭い警告でした。「世界政府による平和可能性」も提案しました。

 来月には核テロ阻止を話し合う核安全保障サミット、五月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれます。日本には発信のチャンスです。非核の傘を広げようと世界に語りかけようではありませんか。北東アジア、中東、パキスタンを含む南インド…。被爆国の責務であり倫理です。

 

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