夜中、激しい風の音で起こされたのは、何年ぶりだったろうか。朝起きるとベランダで育てていたヒヤシンスが根元から折れていた。春分の日のきのう、日本列島は春の嵐が吹き荒れ、各地で多くのけが人が出た▼千葉市では最大瞬間風速三八・一メートルと三月の最高記録を更新。空の便や鉄道のダイヤも大幅に乱れた。お彼岸のお墓参りに支障が出た方もあったのではないか▼同時にちょっと迷惑な「春の使者」が全国に降り注いだ。強い偏西風に運ばれてきた黄砂だ。東海地方では見通しのきく距離が二キロ未満になった地域もあった。春の選抜高校野球が始まった甲子園球場は一時期、薄いもやがかかったような状態になった▼ゴビ砂漠などの乾燥地で、上昇気流によって吹き上げられた大量の砂塵(さじん)が空一面を覆う。そこから日本まで飛来するのは年間百万〜三百万トンと推定される▼中国では、黄砂が巻き起こす強烈な砂嵐を「砂塵暴」と呼び、自然環境や農業に重大な影響を与えている。年間の被害額は七千億円。内モンゴル自治区では遊牧民の定住化政策によって、緑豊かな草原が砂漠の海に変わり、黄砂が発生するようになってしまった▼大気汚染物質が付着した黄砂が日本まで飛来している可能性も指摘されている。海を隔てていても環境問題では、隣国とは「運命共同体」である。中国での被害は人ごとではない。