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弥生や花見月といった温雅な呼び名を持つけれど、ひと皮むけば三月の本性は荒々しい。冬の寒気と春の暖気がぶつかり合って、思わぬ嵐を各地にもたらす。「三月は獅子のようにやってくる」。英国のことわざは、そのまま日本にも当てはまる▼三月は気分屋でもある。どっと南風が吹き込んだかと思うと、返す刀で北風が荒(すさ)び、大雪を降らせたりする。そんな気まぐれを対馬あたりでは「手のひら返し」と呼ぶそうだ。春突風、春疾風(はやて)、彼岸荒れ……。春の嵐を表す言葉は多彩だ。おとといから昨日にかけて、連休の列島を駆け抜けた▼東京や千葉では30メートルを超す風が吹いた。明け方にはごうごうと空が鳴った。鉄道は止まり、飛行機も欠航が相次いだ。安全優先は当たり前だが、足止めに泣いた人はやりきれない▼静岡県では野焼きの3人が火に巻かれて亡くなった。これも「凶風」のせいらしい。筆者にも経験があるが、ゆっくりと野を焼く火も、風が吹くと突然あらぬ方へ走り出す。火と風の相性への油断が、どこかにあったのかもしれない▼気象学者、関口武さんの『風の事典』によれば、日本には2千を超す風の呼び名がある。多くが死語になりつつあるのは、暮らしが自然から離れたためらしい。野焼きに限らず、風の名は忘れても、風の恐ろしさを忘れてしまってはなるまい▼春の嵐のあとは、西風に乗って黄砂が飛来した。大陸で舞い上がる黄砂は年に2億から3億トンというから風は侮れない。身も心もざらりと不快にする迷惑千万な客に、何か手はないものか。