衆院外務委員会での参考人質疑で、核持ち込みの日米密約に関する文書が情報公開法施行前に破棄された可能性が浮上した。事実なら問題だ。関係者からの聞き取りなど、解明を進める必要がある。
文書破棄に言及したのは、一九九八年七月から約一年間、外務省条約局長を務めた東郷和彦氏。
東郷氏によると局長在任中、六〇年の日米安全保障条約改定時の核搭載艦船寄港をめぐる密約に関する文書五十八件を五つの赤い箱型ファイルに整理し、文書リストとともに、後任の谷内正太郎前外務事務次官に引き継いだ。
しかし、リストで最重要文書とした十六点のうち、外務省が公開した関連文書では八点しか確認できず、東郷氏は「外務省の内情をよく知る人から(二〇〇一年の)情報公開法の施行前に破棄されたと聞いた」と証言した。
確認できなかった文書には、核搭載艦船の寄港に言及したライシャワー元米駐日大使の発言に対する歴代条約局長の意見書などが含まれる。重要文書の入ったファイルが、どうすれば消えるのか。
文書破棄の可能性は、日米密約を検証した有識者委員会の報告書でも「当然あるべき会議録・議事録や来往電報類の部分的欠落、不自然な欠落、交渉経緯を示す文書類が存在しない」と指摘された。
公文書は保存・管理し、一定期間後に公開することが望ましい。
特に外交文書は、国民の命運を左右する外交の記録だ。時の外交活動の評価を後世に委ね、その教訓を将来に生かすためにも適切な保存が欠かせない。恣意(しい)的な文書破棄は日本国民と歴史に対する背任行為にほかならない。
鈴木宗男委員長は谷内氏に参考人出席を求める考えを示し、岡田克也外相も外務省として調査する方針を表明した。谷内氏を含む関係者から聴取し、文書がどう扱われたか解明してほしい。
ただ、参考人質疑を聞いて、気になったことがある。鈴木氏が東郷氏に対し、文書を破棄したのは谷内氏ではないかとして、執拗(しつよう)に質問していたことである。
谷内氏は次官当時、部下に鈴木氏との会食を制限する文書を作成して鈴木氏が反発したり、北方領土の返還方法をめぐり見解が食い違うなど、両氏は反目してきた。
谷内氏の参考人招致は破棄問題解明に不可欠だが、意趣返しであってはならない。密約検証は大局的見地から取り組むべきで、個人感情を挟む余地はないのである。
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