バブル期の築地市場で、マグロ1本に2千万円の値段がついたことがある。下北半島の先端にある大間町産のクロマグロだった。人口は6千人ほどの小さな町だが、グルメの間では「高級マグロの名産地」として、名前を知られている。
▼野菜や果物とは意味がちょっと違うのが、魚の名産地である。その場所で取れるといっても、町や村の中で卵から魚を育てるわけではない。遠洋で捕まえた魚を、はるばる船で運び、陸揚げした場所を産地と呼ぶこともある。国際会議で論争となった地中海・大西洋のクロマグロの産地は、アフリカの国々が多い。
▼どの国に属するかなどは魚にとって余計なお世話に違いない。太平洋のマグロは、日本の南西諸島やフィリピン東部で産卵するらしい。幼少時は九州や四国沖で過ごし、やがて黒潮に乗って1年かけて北上する。三陸沖で親潮にぶつかると、米西海岸に向かって方向転換。2カ月で一気に太平洋を渡り切るそうだ。
▼絶滅種を守る条約の下で、自然環境の論議は続く。その舞台裏で、水産資源の利権をめぐる攻防が繰り広げられる。貿易ルールにおとなしく収まらないのが我がマグロである。外交の基本は現実主義。米欧の主張を退けたのはアフリカ勢を味方につけた中国の力が大きかった。マグロ会議に国際政治の実像が映る。