モスクワの赤の広場で叫び回っている男がいた。「フルシチョフはバカだ。フルシチョフはバカだ」。男はすぐに捕らえられ、懲役20年の刑に処せられた。その1年分は最高指導者を侮辱した罪、19年分は国家の機密を漏らした罪――。
▼旧ソ連時代の政治風刺小話「アネクドート」の最高傑作だという。権力者や取り巻き連中の逆鱗(げきりん)に触れるのは、批判そのものよりも「不都合な真実」をあからさまに言い立てることなのだろう。ならば民主党の生方幸夫副幹事長の解任も、みんなが思っていることを公然と言い放ったがゆえのお仕置きに違いない。
▼権限と財源を「どなたか一人」が握っている今の民主党はおかしい、地方分権を唱えているのに党運営はまさに中央集権的だ。副幹事長のこんな発言が産経新聞に報じられるやいなや、執行部は強硬措置に打って出た。世に新たな批判が広がるのも承知の上での始末だろうから、図星を指された慌てぶりが分かる。
▼中央集権の頂点にいる小沢一郎幹事長ご自身はどう感じたのか知らないが、まわりが心持ちを忖度(そんたく)して上を下への大騒ぎというのもこの手の物語のお約束だ。せっかく政権交代を果たしたのに、政策の迷走に加えてこれでは声援もいよいよ途絶えよう。粛清なんぞという言葉も思い出させる肌寒い風景ではないか。