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きょう春分の日は彼岸の中日になる。寒から暖へ転じる候だが、きまって思い出すのは正岡子規の〈毎年よ彼岸の入に寒いのは〉である。母の言葉をそのまま一句に仕立てたそうだ。さすがの自在さである▼敬意を表して、彼岸の入りに東京・田端にある墓所を訪ねてみた。母八重の墓と並んでうららかな日を浴びていた。隣には、生前に自ら書いた墓碑銘を刻した碑がある。「……明治三十□年□月□日没ス享年三十□月給四十圓(えん)」。なるほど、□の部分は生きているうちは分からない。給金を記した墓というのも随分と珍しい▼こうした、歴史上の人物の墓めぐりが、いま静かな人気なのだという。愛好者を指す「墓マイラー」なる言葉も生まれている。そのための地図を作った所もある。子規の親友だった漱石が眠る雑司ケ谷(ぞうしがや)霊園もその一つだ▼地図を頼りに訪ねると、文豪の墓は堂々としていた。多くの有名人にまじって大塚楠緒子(くすおこ)の墓も見つけた。詩文にたけた才女で、早世を悼んだ漱石は〈有る程の菊抛(な)げ入れよ棺の中〉の名高い句を詠んでいる▼一説、漱石が思いを寄せたともされる楠緒子は今年で没後100年になるそうだ。漱石の「夢十夜」がふと胸に浮かんだ。「百年待っていて下さい」と言い残して死んだ、作中の有名な「女」が重なり合う。墓マイラーもなかなか面白い▼きょうは代々の墓にお参りの方もおられよう。有名人でもご先祖様でも、墓はいつもどこか懐かしい。聞こうと心する耳には届く。そんな言葉で昔を語ってくれているからかもしれない。