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それが本当なら、国民に対する二重の背信行為である。徹底した真相の解明と責任の追及が必要だ。
日米密約の核心にかかわる重要文書が、外務省内で破棄されていた可能性が高まった。元条約局長の東郷和彦氏が衆院外務委員会で、後任に引き継いだ「最重要資料」のうち半数が公表されていないと証言したのだ。
先に、安保改定時の核持ち込み密約の存在などを認めた外務省の有識者委員会の報告書も、「当然あるべき文書が見つからず」、「不自然な欠落」も見られたと指摘していた。
2001年4月の情報公開法施行を前に、当時の幹部が密約文書の破棄を指示したとの証言はすでにあった。東郷氏も省内事情をよく知る人から「文書が破棄されたと聞いた」と語った。
民主主義国の外交で、密約は本来、あってはならない。ぎりぎりの国益判断で秘密にせざるをえない場合には、経緯を記録し、後年、一般に公開して、歴史の審判を受けるべきものだ。
「密約はない」と半世紀にわたって国民にウソをつき続けたうえに、国民から重要な判断材料を奪うなどということが許されていいわけがない。
今回、秘密指定を解除されて公開された外交文書からは、冷戦の下、日米安保体制による核抑止力と国民の強い反核感情の折り合いをどうつけるか、当時の政治家や外交官が真剣に悩み苦しんだ姿も浮き彫りになった。
外交記録の破棄は、そうした先人の歩みを消し去る行為でもある。過去の政治判断や政策を検証し、将来に生かす道を封じてしまう。
来年4月施行の公文書管理法は、公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づけ、廃棄には首相の同意を義務づけるなど、厳しいルールを定めている。
岡田克也外相は東郷氏の証言を受け、「外務省としても、よく調査しなければいけない」と語った。
比較的近年の話で、現役官僚が関与している可能性もある。個人の責任が明らかになることで、省内に亀裂が走る懸念もあろう。
しかし、政権交代を経て、ようやく政府が密約の存在を正面から認めたのに、文書破棄の疑惑を放置したままでは、外交への国民の信頼回復も中途半端に終わりかねない。
岡田氏には明確な指示を出して欲しい。改めて第三者機関を設置し、当時の外相や外務省幹部らから事情を聴くべきだ。
外務官僚だけの判断で破棄が行われていた可能性もある。官僚の無責任な隠蔽(いんぺい)体質をただすうえでも、事実関係を明らかにすることが不可欠だ。
真相に迫る責任は国会にもある。外務省任せにせず、国会が国政調査権を発動して調べる道もある。
地下鉄サリン事件から、きょうで15年になる。犠牲になった人々の遺族や負傷者の苦しみ、悲しみはこの歳月で消えるはずもない。
奇怪なカルト集団による非道な行為。その衝撃は世界的なものだった。大量破壊兵器(WMD)のひとつである化学兵器を使って大都市で大量殺人を試みた世界史上初の無差別テロだったからだ。
WMDには化学兵器のほか、生物兵器、核兵器が含まれる。冷戦後、WMDの拡散防止が安全保障や国際社会の安定にとって重要課題となっていた。だが、対策が整わないうちに、あの事件が起きた。
大規模にWMDを使うテロが広まれば、世界はどうなるのか――。米国議会上院の小委員会で1995年秋、事件の教訓をまとめた文書が公表された。そこにはこう記されている。
米国の情報当局は主に国家への拡散は懸念していたが、犯罪組織によるWMDテロは起きそうにないとの慢心があった。事件は、米国への強烈な「目覚まし」となった。
同じ年の主要国首脳会議も、テロなどの国際組織犯罪に関する専門家会合の設置を決めた。
事件は世界の動きを変えるテロだったのだ。
その後、2001年に9・11テロが起き、米国の安全保障政策は対テロ戦略へとさらに重点を移す。極度にWMDテロを警戒するようになり、フセイン政権がWMDを隠し持っている恐れがあると、イラク戦争にうって出た。
WMDと言っても、核兵器の方が生物・化学兵器より殺傷力が巨大だ。ひとくくりにすることへの違和感もある。ただ、一度に大量の無差別被害をもたらす点では共通している。
04年になって、米国主導で国連安全保障理事会決議1540号が採択された。テロ集団によるWMD製造などを禁止する法律の制定・執行、密貿易を防ぐための輸出管理強化などを、国連加盟国に求めている。
WMDについてはすでに、核不拡散条約、生物兵器・化学兵器禁止条約がある。だが、テロを防ぐには各条約に加えて、この決議を生かし、WMD関連の犯罪行為をいち早く摘発していくことが肝要だ。
オバマ米大統領は4月に、核テロ防止を主眼に核保安首脳会議を主催する。課題のひとつは、この決議の効果的な実行だ。対策の遅れがちな途上国を支援し、国際社会が足並みをそろえれば、核テロに限らずWMDテロ全体を抑える手立てとなる。
日本は、WMDに触手を伸ばすテロ組織を抑えるため、多国間協力を強く促すべきである。国内で、化学兵器テロの恐怖を目の当たりにした国の大事な使命でもある。