HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21547 Content-Type: text/html ETag: "3513d8-542b-5ffab580" Cache-Control: max-age=5 Expires: Thu, 18 Mar 2010 23:21:07 GMT Date: Thu, 18 Mar 2010 23:21:02 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
地価の動きは経済の勢いを映す鏡といえる。デフレで地価が下がるのも当たり前のこと。鏡を見て服装を整えるように、新しい現実を景気回復への足がかりにしたい。
国土交通省がきのう発表した公示地価は、全国で2年連続の下落だった。下げ幅は住宅地が4.2%、商業地は6.1%だった。
調査対象の約2万7千地点のうち上昇地点はわずか7地点。2008年秋のリーマン・ショック後の世界同時不況から抜け出せない日本経済の姿が確認された。
とはいえ、バブル崩壊後の90年代とは様相が異なる。地価の下落が不況に拍車をかける悪循環に陥ってはいない。首都圏や中京圏では、下落傾向が緩やかになってきた。
直近のピーク時からの下落率は、住宅バブルが破裂した米国や英国などに比べ格段に小さい。20年近くに及ぶ長い調整期間を経て、ようやく利用価値に見合う地価水準に落ち着いてきたようにも見える。
アジア向け輸出の回復や財政・金融政策を頼りに不況からの出口をさぐっている日本経済にとって大事な時期だ。地価下落が経済に悪影響を及ぼさないよう、政府は注意深く手を打ってもらいたい。
地価が下がって担保価値が落ちれば、金融が収縮したり投資や雇用が減少したりしかねない。それに対応するきめ細かい金融行政や中小企業対策が必要だ。資産の目減りで消費が冷えないよう、住宅ローン減税などの目配りも欠かせない。
だが、地価下落はチャンスも生む。企業が事業拡大の好機と受けとめ、個人が新たな住宅取得へと動くなら、いずれ景気回復へとつながってゆく。
たとえば首都圏ではここ数年、住宅価格が平均年収の6〜7倍の水準にあった。90年代前半、宮沢政権が「大都市圏の住宅を平均年収の5倍程度に」との目標を掲げた。今でも妥当かどうかは別として、この水準に近づけば、買う人がだんだんと増えてくる可能性はあるだろう。
今年に入って首都圏でマンション契約率に回復の兆しが出ているのは、そうした変化を示すようにも見える。
これを機に、福祉施設の建設も期待できる。大都市圏では保育所が大幅に不足している。地価下落で建設費が安くなった以上、不足の解消へ踏み出す決断を関係者に求めたい。
海外からの投資も呼び込みやすくなった。土地は投機の対象にしてはならないが、眠らせておくものでもない。有効に利用すべきものだ。
住む人には暮らしやすく、ビジネスや観光で海外から来る人にも魅力的な日本作りを進める好機である。ここから新しい成長への道筋を考えたい。
「不気味なほど静かだ」との声が経営側から漏れていた今年の春闘。賃金交渉は前半の山場を迎えたが、雇用格差の是正という新たな課題にはなお、回答が出ていない。
自動車や電機、鉄鋼など製造業の大手で、経営側が一斉に回答した。デフレ不況のもとで、組合側は月々の賃金は「定期昇給の維持」という手堅い要求に抑制。企業の業績が輸出関連の大企業を中心に回復しつつある流れを受け、多くの大手で賃金は「満額回答」となった。
ただし、賞与・一時金での攻防は激しく、要求割れも目立つ。
私鉄など内需関連のサービス産業の回答はこれから。ベースアップを要求しているところもある。払える企業はできるだけ払う形で前向きに決着させてほしい。
中小企業の賃金交渉もしだいに本格化してくる。定昇の仕組みがない企業が多いが、ここでも力のある企業は働く人々に報いて欲しい。連合には、妥結状況に関する情報発信で一層の工夫を望みたい。
連合が「すべての労働者のため」とうたった今年の春闘は、雇用のあり方を問い直している。正社員と非正社員の二重構造をどう克服するか。多くの企業で職場の実態把握が始まった段階というが、新たな日本的雇用システムを築く動きにつなげたい。
正社員の「終身雇用と年功序列」に象徴されたかつての日本的雇用システムは、ブルーカラーもホワイトカラーもあまねく能力を発揮、向上させるうえでよく機能した。広く普及したのもそのためだった。
それがバブル崩壊後は、一部の働き手を人材としてよりも、単なる「労働力」「コスト」とみなす傾向が強まり、非正規の雇用が増大した。
このままではいけない。時代の転換点にあって、多くの企業の労使がそう思い始めているのではないだろうか。雇用流動化の時代に適合した形で、もういちど、働く場のすべての人々の能力が十分に発揮できる新しい雇用システムを組み立てることができないものだろうか。
正社員と非正社員の格差是正に挑む企業はまだ少ない。だが、そうした企業の経営者は「働く人すべての能力を生かしたい」と強く考えている。そして、社内一丸のエネルギーをテコに企業をもう一段上のレベルに脱皮させようとするビジョンを持っている。
動きが鈍い企業は、この不況下での経営難に追われ、そういうビジョンを描く余裕がないのかも知れない。しかし、雇用の格差是正への取り組みが、企業全体の競争力を高めるカギになる可能性はある。
税制をはじめ政策面でも、ぜひ応援すべきだろう。