春闘のヤマ場となる金属労協(IMF・JC)など主要労組への回答が出た。大半が定期昇給(定昇)を維持したが、景気も暮らしも弾みがつかない。中小企業と非正規労働者の待遇改善も急げ。
「これ以上賃金を低下させないという連合の方針に基づき、大変な交渉を経て回答を引き出した組合に敬意を表したい」−。連合の古賀伸明会長は十七日夕に記者会見し、この日の集中回答を評価した。だが政権交代後、新執行部が主導した初の春闘は盛り上がりを欠いた。
確かに当初は景気や雇用情勢が厳しく、定昇凍結論がささやかれた。加えて大規模なリコール(無料の回収・修理)問題で対応に追われているトヨタ、販売価格の急落で利益低下に悩む電機業界など経営側の壁は厚かった。
だが、最後は主要各社は大半が定昇維持を回答した。連合が最初からベースアップ(ベア)要求を見送り定昇維持一本に絞ったことが春闘の迫力を削(そ)ぎ、経営側に余裕を与えることになった。
そもそも賃金水準全体を底上げするベアと違って、定昇は年功的に自動昇給する制度だ。経営側が定昇凍結を提案したなら別だが、労組側から定昇維持を交渉テーマに掲げるのはおかしい−との声が組合内部から出たほどだ。
定昇維持とばらつきのある一時金回答では、個人消費が盛り上がって景気を刺激し、勤労者の生活に潤いが出るかは疑問だ。
企業の業績は着実に回復している。エコカー減税やエコポイント制度など過去の相次ぐ景気対策の効果や中国向け輸出などの増加があったためだ。経営側が腹をくくればベアもできたし、一時金も満額が出せる状況だったはずだ。
最初のヤマ場を越えた次の焦点は中小企業労働者の賃上げと、パート・アルバイトや派遣など非正規労働者の待遇改善だ。
連合は今春闘で中小企業の賃上げ要求額として、大手の定昇分に相当する五千円を掲げた。労使交渉はこれからが本番。連合本部・産別組合はしっかりと支援態勢を組んでもらいたい。
さらに今年は「すべての労働者の処遇改善」を取り上げている。非正規の正社員転換制度や社会・労働保険への加入状況、時間給の引き上げなどを労使協議のテーマに取り上げるよう呼び掛けた。組織拡大に直結する重要課題だけに中期的に取り組むべきである。
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