お年寄りが安心して暮らせるようになるのに、どれだけの犠牲を払えばいいのか。またも高齢者施設の火災が起き、七人が命を落とした。急激な高齢化の進展を前に、安全対策をためらうな。
札幌市の認知症高齢者のグループホーム「みらい とんでん」で十三日未明、六十〜九十歳代の男女七人が火災にのみ込まれた。居間にあった石油ストーブが火元との疑いが濃厚だ。
火災への施設の認識の甘さが早くも露呈している。消防法に基づく消防計画や消火器、誘導灯などの消防設備の点検報告を怠り、指導を受けていた。ストーブの近くには日常的に洗濯物が干されていたという。お年寄りを預かる施設としてはあまりにずさんだ。
認知症高齢者のグループホームは、五〜九人が個室を持ち、職員の助けを借りながら共同生活を送る場だ。症状が緩和されるといい、認知症ケアの“切り札”とされる。厚生労働省によると、全国に九千九百六十六施設があり、利用者は十四万三千人に上る。十年で二十六倍という激増ぶりだ。同様の惨事はいつ、どこで起きてもおかしくない。深刻な問題だ。
それにしても、一年前に群馬県渋川市の老人施設「静養ホームたまゆら」で十人が犠牲となった火災の教訓が、どうして生かされなかったのか。スプリンクラーがなかったり、夜間の当直職員が一人だったりと共通点が目立つ。
初期消火に有効なスプリンクラーを欠いたのは致命的だった。〇六年の長崎県大村市のグループホーム火災を受け、スプリンクラー設置を義務付ける床面積基準が拡大された。だが「とんでん」は対象外の小さな規模だった。自動火災報知機や消防への自動通報装置の設置義務も、一二年三月まで猶予され、未設置だった。
ホームの夜間の職員配置も疑問だ。厚労省の基準だと、入居者九人までは当直一人でいいことになっている。しかし、入居者の多くは介添えなしには動けない。夜間に火災が起きれば、お手上げになるのは目に見えている。
惨事が起きるたびに、同じような防火体制上の不備が指摘される。施設にとってのコスト負担が過大にならないようにとの配慮が背景にある。だが、高齢化の進展ぶりを見れば、行政は大胆な資金援助を検討すべき時期だ。
施設は安全意識を高めるとともに、日ごろから近隣住民との協力態勢を整えておくことも大切だ。
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