オバマ米大統領が、米国の輸出を今後5年間で2倍にする「輸出倍増計画」を発表した。米政府がセールスの先頭に立ち、米企業の輸出をあらゆる角度から支援する構えだ。
倍増とは生やさしい目標ではない。目標の達成を急ぐあまり、米政府が独りよがりの通商政策に陥り、保護主義を誘発する恐れはないか。
米商務省によると、2009年の米国の輸出額は1兆5千億ドル強(約140兆円)。これを2倍に増やすとなれば、日本一国の輸出額を上回る規模で、米国の製品とサービスが世界にあふれ出すことになる。
その一方で、金融危機による需要収縮で、世界全体の貿易は伸び悩んでいる。窮屈な市場に米国が攻勢をかければ、他の参加者を市場外に押し出しかねない。
アジア市場を中心に、激烈な競争となるのは明らかだ。米国以上に輸出に頼っている日本にとって、強大な競争相手の登場である。日本も輸出促進の戦略を練る必要があるが、日本にとって何よりも大切なのは自由貿易の体制を守ることだ。
オバマ政権は、表向きは貿易保護主義に反対の立場だが、中国製タイヤに対するセーフガード(緊急輸入制限)発動など、これまで自由貿易と逆方向の政策を採ってきた。
世界貿易機関(WTO)でも、多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)を進める提案を示していない。自由貿易協定(FTA)についても、前ブッシュ政権から引き継いだパナマ、コロンビア、韓国との協定発効を目指す方針を示しただけだ。
オバマ政権は、中国に人民元相場の切り上げを求めた。日本には農畜産物の市場開放で、圧力をかけてくるだろう。外需志向の米国を震源地として、世界各地で通商問題での緊張が高まるのは間違いない。
11月に中間選挙を控えて、オバマ政権は今後一段と、米国内の保護主義勢力の声に耳を傾けざるを得なくなるだろう。
米国を起点に自国の利益を守るための保護主義を誘発する事態は、避けなければならない。自由貿易の受益国である日本は米国が保護貿易に傾かぬように、WTOやFTAの交渉で率先して市場開放の姿勢を示す必要があるだろう。