「古式捕鯨」発祥の地といわれる和歌山県太地町に「くじらの博物館」がある。天井からは実物から型を取った約十五メートルのセミクジラの標本がつり下げられている。六十トン近かったであろうその巨大さに目を見張った▼現在は、国際捕鯨委員会(IWC)の管轄外のツチクジラなどを捕獲しているこの町に世界的な注目が集まっている。イルカ漁を隠し撮りした「ザ・コーヴ」(入り江)が、今回の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したためだ▼いま話題の反捕鯨団体シー・シェパードも二〇〇三年、メンバーが捕鯨に使う仕切り網を切断する事件を起こした。伝統的な漁を続ける人たちが、クジラやイルカを残酷に殺していると一方的に断罪されるのは、やり切れないだろう▼日本の調査捕鯨活動を執拗(しつよう)に妨害してきた同団体の活動家が、艦船侵入容疑で逮捕された。薬品の入った瓶を調査船に撃ち込むなど他の反捕鯨団体からも批判を受けるほど悪質だ▼調査船に乗り込んだのは、自分たちの活動のアピールが目的なのは明白だ。それだけに、法廷が言い分を主張する格好の舞台となると指摘する声もある▼戦後の食糧難の時代、貴重なタンパク源となった鯨肉に特別な郷愁を持つ人は多い。暴力的な活動に怒りはわくが、相手のペースに乗らずに冷静になりたい。理はどちらにあるかは明らかなのだから。