公的年金制度を現行の保険方式から税方式に変えることを目指す政府の検討会が発足した。理念はともかく最大のアキレス腱(けん)は財源の確保だ。これがはっきりしない限り、議論が進まない。
連立与党は昨年九月、厚生、共済、国民年金と分かれている公的年金制度を一元化するとともに、消費税で賄う「最低保障年金」と、負担した保険料に応じて決まる「所得比例年金」を組み合わせた制度に変える政策に合意している。民主党によれば、最低保障年金は現行の国民年金の満額である約六万六千円を少し上回る月額七万円以上という。
税方式の主張の背景にあるのは国民年金制度への未加入、保険料の未納、免除者が合わせて四割を占め、将来、多数の無年金・低年金者が発生しかねないとの懸念だ。この対策として制度の手直しは必要だが、問題は財源だ。
最低保障年金の財源として民主党は5%の消費税収を全額投入して財政を安定させるとしているが、今でも年間の国民年金給付総額が十九兆円なのに対して、消費税収は十二兆円しかない。
しかも現行の消費税のうち四割が地方財源で、残りも既に社会保障の財源に回されている。
二〇〇九年度から始まった国民年金の国庫負担割合の三分の一から二分の一への引き上げに伴い、毎年新たに二・五兆円が必要になり、一〇年度までの二年間は「埋蔵金」でしのいだが、一一年度はまだ財源のめどが立っていない。今後も毎年のしかかってくる。
厳しい財政事情の中で最低保障年金をすべて消費税で賄おうとすると、消費税率の大幅な引き上げが避けられないが、国民が耐えられるのかどうか疑問だ。
政府は五月までに新制度の原則をまとめるとしているが、それでは不十分だ。財源の将来見通しを明確に示すべきである。
民主党の年金政策にはこれまで財源の曖昧(あいまい)さがつきまとってきた。従来「野党では制度設計に必要なデータが得られない」と財源に触れることを回避してきたが、政権政党になった今、先送りするような言い訳は通じない。
社会保障には医療、介護もあることを忘れてはならない。前政権の試算では医療・介護の一体的改革に要する費用は消費税換算で4%に達する。こうした費用を無視して増税分を最低保障年金だけに投入してもいいのか。どの分野にどれだけ投入するのか、野党とも十分に協議しなければならない。
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