<十年一昔>というが、さらに五年を加えた十五年の歳月は世界を震撼(しんかん)させた事件すら、人々の記憶から洗い流してしまう時間なのだろうか。風化にあらがい、犯罪被害者の権利を確立してきた人たちの姿に胸が熱くなる▼十二人が死亡した地下鉄サリン事件から二十日でちょうど十五年。東京都内できのう開かれた集会で、「被害者の会」代表世話人の高橋シズヱさんが、遺族や捜査関係者、被害者対策にかかわった人などにインタビューした映像が流された▼事件当時、聖路加国際病院の救急医として、次々と運び込まれてくるサリン中毒者の治療に当たった奥村徹さんの言葉が印象に残った。「これを読めば分かるという地下鉄サリン事件の公式の報告書はない」という一言だ▼米中枢同時テロでは、米議会の調査委員会は数年後に詳細な報告書を提出、政府がテロの脅威を見逃していたことを厳しく追及した。同じ無差別テロなのに、日米の対応はあまりに対照的ではないか▼警察庁長官だった国松孝次さんは、高橋さんのインタビューに「オウム事件の捜査には反省するべき点が多い。被害者のみなさんには一言もない」と語っている▼刑事裁判はほぼ区切りが付いた。政府は、捜査関係者や元被告らからの聞き取り調査など、事件の公的な検証をいまからでも始めてほしい。新たなオウム事件を起こさないために。