労働者派遣法の改正をめぐり連立与党内の調整が難航している。まだ課題が残っているためだが基本方向を見失っていないか。派遣労働者の保護の原点に立ち戻り、今国会での改正案成立を急げ。
「働きたいときに働く」「正社員と同じような待遇」との触れ込みで一九八五年に制定された労働者派遣法。若い女性を中心に人気を集めたが、現実には契約期間中でも解雇される不安定雇用の象徴的存在だ。
労働力調査によると昨年平均の非正規雇用労働者は前年比三十九万人減の千七百二十一万人。このうち派遣は三十二万人も減って百八万人となった。派遣切りが吹き荒れたことを裏付けている。
また労働者を禁止業務へ送り込んだり専門職と偽って長期間働かせるなど、派遣会社の違法行為が後を絶たないありさまだ。
鳩山新政権の下、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)は昨年末に派遣制度の見直しを答申した。先月下旬には改正案要綱も答申され、今国会に改正案が提出される段取りになっていた。
柱は(1)雇用期間が二カ月以内の日雇い派遣(2)長期間の雇用契約を結ぶ常用型を除いた製造業務派遣(3)専門二十六業務や高齢者などを除いた登録型派遣−をそれぞれ原則禁止とする厳しいものだ。
派遣法は過去ずっと緩和され続けてきただけに、今回は「原則自由化された一九九九年以前の状態」に戻る派遣制度の大転換だ。
ところが社民、国民新両党は派遣受け入れ企業の事前面接解禁に強く反発。登録型派遣禁止の猶予期間の長さなども問題視した。
事前面接は現行制度では禁止されている。前政権の改正案に盛り込まれ、今回も引き継がれた。派遣法を規制強化する一方で企業側に規制を緩和するのはおかしい−との指摘はそのとおりだ。できれば解消すべきだろう。
だが今回の改正の基本は派遣労働者全体の保護強化である。
労働・雇用政策は働く現場で徹底されなければ意味がない。労政審は公益、労働、使用者の三者構成の組織で、政策決定までにはいつも労使の激しいせめぎ合いがある。今回の改正案も使用者側とやっと折り合いがついた。
与党関係者はもう一度、雇用の現場を直視してほしい。派遣労働者が職場と住居を同時に失うような状況をなくすには、一刻も早く現行制度を変えなくてはならない。公労使合意を踏まえた改正案を閣議決定すべきである。
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