元横綱朝青龍が母国モンゴルで記者会見を開いた。ある言葉が気になっている。相撲協会への不満でも、暴行の一件を否定した発言でもない。「引退は後悔していない」という、そのひと言が▼彼の去った大相撲は明日から春場所。そこで一つの「もし」が現実になる。昨年上梓(じょうし)した自伝の中で、大関魁皇は書いている。<もし、来年、平成22年の春場所まで現役なら100場所になるのだ>(『怪力』)。そう、幕内在位百場所は史上初の偉業だ▼大関は幕内最年長の三十七歳。競技ごとに年齢的ピークは異なるが、別のスポーツにはさらに“高齢”の最年長もいる。プロ野球なら工藤公康投手、四十六歳。サッカーJリーグでは三浦知良選手、四十三歳。ほかにも“潮時”を超え、現役にこだわり続けている選手は少なくない▼年々歳々、体力は衰える。もう若いころのような成績は残せない。無論、いつでも転身は可能。それでもやめない。多分、「現役」であることとはお金にも名誉にも、何ものにも替えがたい宝なのだ▼元横綱は例の会見で、現役続行なら「三十回以上、優勝できた」と語った。傲慢(ごうまん)さより、押し隠した未練が感じられてならない。まだ二十九歳の目に、土俵に立ち続ける三十七歳は、本当はひどく眩(まぶ)しいのではないだろうか▼「引退は後悔していない」。だから、この言葉が、切ないのである。