ギリシャの経済危機が深刻になるにつれ、欧州の金融当局が国債に関する金融取引の一部を制限することを考えている。投機に利用され危機を引き起こしたとみているからだ。
欧州委員会や各国中央銀行がやり玉に挙げているのは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という金融商品だ。債券などの債務不履行(デフォルト)が起きたとき、保有者の損失額を保証するもので、いわばデフォルト保険である。
国債を保有する投資家が、万一の事態に備え保険をかけるためにCDSを取得するのは、合理的な経済行動だ。責められるいわれはない。
問題は国債を持たない投資家が、債券の売り崩しを狙いつつ、CDSを大量に取得する場合である。CDSは保険商品なので、国債への信認を揺さぶる情報を流せば、保険料がハネ上がる。
保険料の上昇はリスク増加のシグナルでもある。水鳥の羽音に驚く平家のように、現物の国債を保有する投資家が不安になり、債券の売りに走るといった事態が発生し得る。
そこで欧州の当局者は、現物の国債を持たない投資家によるCDSの利用を制限しようとしている。
ただ、実際の規制はとてもやっかいだ。流動性の高い国債は頻繁に売買されるので、投資家が国債を保有しているかどうかの認定は容易ではない。それに保険のための金融商品の利用が制限されることは、欧州の国債に投資する魅力を低下させることにもなりかねない。
そもそも、CDSが今回のギリシャ危機の引き金だったかどうか見方が分かれており、英金融サービス機構(FSA)のターナー長官はCDS主犯説を否定する。
財政赤字を無視して、利回りの高さにつられたギリシャ国債への投資が拡大し、国債バブルが膨らんでいた。だがソブリン・リスク(財政の信認問題)に投資家の関心が向かい、バブルが崩壊した。今回の危機はこう考える方が素直だろう。
危機はギリシャから他の南欧諸国に波及する恐れがある。何とかしたいという当局者の気持ちは分かるが、南欧諸国の財政の立て直しとユーロ圏各国による支援態勢こそが、危機対応の基本ではないのか。