その昔、マグロは上等な魚ではなかったというのはよく聞く話だ。昭和初期になってもそんな気分が残っていたのだろう。当時の「すし通」なるグルメ本いわく「宮内省や華族の屋敷に出前する鮨(すし)には、鮪(まぐろ)は使わないのが普通である」。
▼それが何という様変わりか。名だたる高級店から1皿105円の回転ずしまでマグロがなければ立ちゆかない。この魚に寄せる日本人の偏愛はとどまるところを知らず、世界中の海からマグロはやってくる。近年は稚魚のうちに獲(と)って生(い)け簀(す)で太らせる「畜養」が全盛だ。大トロ中トロが身近になった所以(ゆえん)である。
▼きょうから中東カタールで始まるワシントン条約会議で、大西洋・地中海産のクロマグロの国際取引を禁止する案が投票にかかる。ワシントン条約といえば絶滅危惧種を決める枠組みだ。マグロもシーラカンス並みかと嘆きたくなるが日本への目はとても厳しい。マグロ食いの節度を考えるよい機会かもしれない。
▼ここは日本が率先して資源管理に手を尽くすのが、行き過ぎた規制を招かないための道だろう。かのシー・シェパードのような集団の無法がマグロにまで及ぶのを防ぐためにも、わが方の自制は大切だ。ちなみに「すし通」によれば、鮨はちょいとつまむのが粋で、腹いっぱい食べるのは「野暮の骨頂」だそうだ。