HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 11 Mar 2010 20:16:04 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:揺れるユーロ 統合への懐疑を超えよ:社説・コラム(TOKYO Web)
東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

揺れるユーロ 統合への懐疑を超えよ

2010年3月11日

 ギリシャの財政危機が、欧州連合(EU)を揺るがしている。ユーロの信認さえ論議される事態に、今後の統合推進に悲観的な声も聞こえ始めた。欧州の歴史的実験への政治的な意思が問われる。

 ギリシャの財政危機に端を発した欧州金融市場の混乱は、経済問題を超えて、EU統合そのものの在り方を問いかけている。

 問題の根っこには「政治統合なき通貨統合は機能するか」という欧州を二分するユーロ導入時からの議論がある。統合懐疑派が多い英国など北欧諸国は、国民国家の象徴たる通貨主権の喪失を嫌い、今も導入に慎重だ。これに対し、独仏に代表される大陸諸国の統合派は、通貨統合を通してこそ政治統合は促進される、との立場だ。

 導入後十余年を経てユーロはドルに次ぐ第二の国際基軸通貨の地位をうかがうところまで成長した。EU大統領(欧州理事会常任議長)、外相(外交安保上級代表)も誕生し、政治的統合体としての体裁も一応整えた。

 そこを狙い撃ちしたかのようなギリシャ危機だ。財政破綻(はたん)が他の加盟国へ波及する懸念も払拭(ふっしょく)されておらず、ユーロの信認が問われかねない事態になっている。「欧州の将来が問われている」という統合派フィッシャー元独外相の言葉に衝撃の大きさが表れている。

 ギリシャの財政の尻ぬぐいをなぜドイツがしなくてはならないのか−。今回の危機の要点はこの一点かもしれない。

 かつての「ユーゴ症候群」が想起される。一九九〇年代のユーゴスラビア連邦解体の原因は、冷戦後に解き放たれた民族問題のほかに、経済負担の格差に対する不満にもあった。連邦の中に六つの共和国があり、貧富の差が歴然とあった。裕福な北部の国には、貧しい南部の国へ所得再分配を強いられる不満が鬱積(うっせき)していたのだ。

 EUの拡大・深化はいわばその対極にある歴史的実験だ。二度の世界大戦後の不戦の誓いをもとに欧州統合を図る試みだ。流血抗争にまみれた旧ユーゴ諸国が、民主主義、人権など、新たな価値観のもとに加盟、加盟準備を始めている事実は、その理念を裏付ける象徴といえる。

 政治統合の将来像が見えないこと、民主化が不徹底なことなど、EUは多くの弱点を抱える。しかし、今回の危機を乗り越えて、統合深化への「欧州の知恵」を探らない限り、グローバル社会での欧州の影響力は低下するばかりだ。

 

この記事を印刷する