江戸時代は元禄のころに書かれた「土芥寇讎(どかいこうしゅう)記(き)」という珍本がある。難しい題名だが、中身は各地の大名の仕事ぶりから日々の素行までを調べ上げた機密報告だ。幕府の隠密が諸藩に潜り込んで拾ってきたネタを高官がまとめたらしい。
▼「殿様が家来をゴミのように扱えば、家来は殿様を仇(かたき)のようにみる」。タイトルはそういう意味だ(磯田道史著「殿様の通信簿」)。こんな報告書が今もあったなら、鹿児島県阿久根市の市長さんはどう描かれよう。いや、通信簿などなくとも強権的な市政運営で全国に行状を知られるようになった猛者ではある。
▼「改革派」と期待する声も当初は少なくなかったとのことだ。しかるに議会や職員と泥沼の争いを続け、ブログでは激越な言葉を放って物議を醸す。果ては議場にマスコミがいるからと本会議を欠席するありさまだ。課長たちには議会での答弁を禁じているという。その言動はもはや「殿、ご乱心」というべきか。
▼鳩山政権も旗を掲げる「地域主権」の時代である。ユニークな首長が方々にいるのもいいが、こういう人が現れるようではそれに水を差すことになるから地域の責任は重い。地方が何か大きな過ちを犯しはしないか、目を凝らしているのが中央の「官」だろう。新「土芥寇讎記」の準備に余念がないかもしれない。