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宇都宮新会長―「司法改革」を止めるな

 日本弁護士連合会の新会長に、多重債務者問題への取り組みなどで知られる宇都宮健児氏が決まった。

 日弁連の会長選は、全国の弁護士約2万8千人が投票権を持つ。このところは会員数の多い東京、大阪の現路線支持派が推す候補が選ばれ続けてきた。それをひっくり返しての当選だ。2度の投票という異例の展開だった。

 大きな勝因は、司法制度改革で打ち出された法曹人口の大幅な増員を進めてきた流れに対する若手や地方の反発を吸収したことだった。

 司法制度改革は、司法を市民に身近な存在にしていくことを目指す。裁判員裁判の導入と並ぶ柱が、司法試験の合格者を年3千人とする計画だ。

 弁護士人口はこの10年で約1万人増えた。このため若手のなかには仕事探しに苦労する弁護士が出てきた。実務を通じた新人の教育も十分できなくなった。質の低下を指摘する声もある。

 日弁連の中での不満の高まりを受けて、宇都宮氏は合格者数を「1500人に減らす」と訴えた。改革を根幹から覆すような主張である。急激な増員がひずみをもたらした面はあるとしても、あまりにも内向きの論理だ。

 司法制度改革は経済界や労働団体、消費者団体など幅広い国民の要請をうけ、日弁連、法務省、最高裁の法曹3者で進めてきた経緯がある。弁護士会の都合だけで、大幅な見直しをすることはできない。

 増員ペースが速すぎるというなら、問題点を洗い出し改善策を示すのが筋だ。就職難をいうなら、法曹資格者の民間企業や官公庁などへの進出をどう促すか真剣に検討すべきだ。質の低下をいうなら、法科大学院をどう改革するかの議論を優先させることだ。日弁連だけでなく、法曹界や関係団体が一緒になって知恵を絞ってほしい。

 2009年版の弁護士白書によれば、昨年8月現在、全国に203ある地裁支部の管轄地域のうち弁護士が1人もいない地域が2カ所、1人しかいない地域が13カ所ある。

 市民が身近に弁護士に相談できる「法テラス」のコールセンターへの問い合わせ件数は08年度、約28万8千件にのぼった。起訴前の容疑者にも国選弁護人をつけるようになった。弁護士を必要とする人はたくさんいる。

 宇都宮氏はサラ金被害者の救済に力を尽くし、グレーゾーン金利撤廃の法改正にこぎ着ける立役者となった。08年末の「年越し派遣村」では名誉村長を務め、貧困問題対策本部を日弁連内に立ち上げることを提唱している。こうした視点は、日弁連会長としてもぜひ生かしてほしい。

 新会長の仕事は、弁護士界のひずみを和らげながら、法の専門家の助けが必要な人たちに応えることだ。改革を停滞させてはならない。

98の空港―無責任のツケを誰が払う

 またひとつ、前途が心配な空港が誕生した。全国で98番目となった茨城空港。経営を黒字にできる確かな見通しもないままつくられたのは、なぜなのか。よく考えてみたい。

 空港経営を黒字にできなければ、その負担を負うのは国民である。

 地元には、羽田空港や成田空港に続く「首都圏第3空港」として期待する声もある。だが、茨城空港の定期就航はソウル便と神戸便のわずか2路線しか決まっていない。

 成田や羽田に近すぎて、航空各社が就航を見合わせた。年間の利用客数は、着工前の予測の5分の1ほどしか見込めない状況にある。空港運営で大きな赤字が避けられないほか、県の公社が営むターミナルビルでも赤字は年間2千万円ほどになりそうだ。

 需要が期待はずれとなった空港は珍しくない。海外も含めたビジネスや観光などで、利用客がこれから増えるに違いない。そんな捕らぬタヌキの皮算用があちこちで幅をきかせ、地元の期待をあおった。しかし、開港後は厳しい現実に直面する。日本中、そんな空港であふれている。

 国土交通省がまとめた全国の空港の国内線の状況によれば、比較可能な69空港のうち、実績が需要予測を上回ったのはわずか8空港だった。

 不況も一因ではあろう。しかし、建設反対論を押し切ろうと、もともと甘い需要見通しをつくったのではなかったか。そんな疑いもぬぐえない。

 需要予測は、人口や国内総生産の将来予想、観光需要などをもとに作られる。本来は客観的なものとなるはずだが、その調査の多くは国土交通省出身者が幹部を務める財団法人などに委託されている。

 全国の空港で駐車場や保安業務の多くを請け負っているのは国交省航空局が所管する27の公益法人だ。うち20法人に官僚700人以上が天下っている。空港利権に期待する関連業界や自治体、政治家。官僚もそのなれ合い構造にくみした結果が、無責任な空港建設につながったのではないか。

 98空港の多くは赤字経営だ。その運営維持に巨額の税金がつぎ込まれ続ける事実も忘れてはならない。昨年1月に日本航空が撤退して経営が苦しい福島空港では、空港運営の赤字を税金で年間3億〜4億円穴埋めしている。

 アジアなどからの客を呼び込むなど、各空港が経営の改善に向けて努力することが望まれる。だが赤字垂れ流しをいつまでも続けることはできない。見通しが困難な空港は、思い切って統廃合を進めるしかない。

 ハブ化する羽田との連絡など航空網の未来図はもちろん、新幹線と高速道路も含む総合的な基幹交通ネットワークを描きながら、空港ごとの採算性を厳しく問いたい。

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