HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 60751 Content-Type: text/html ETag: "fccba-12b8-91abfdc0" Expires: Thu, 11 Mar 2010 02:21:13 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Thu, 11 Mar 2010 02:21:13 GMT Connection: close 3月11日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)



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3月11日付 編集手帳

 歌人の佐佐木幸綱さんに一首がある。〈刺すことの刺さるることのきらきらと輝きながら乱世は誘う〉。「源実朝」と題する連作にある。「きらきらと」は白刃の光だろう◆鎌倉幕府の3代将軍、源実朝は(おい)()(ぎょう)の手にかかり、鎌倉の鶴岡八幡宮で殺された。曲がりなりにも公武対立の緩衝役を務めていた実朝の死により、幕府との協調に絶望した後鳥羽上皇は倒幕を決意し、時代の歯車は乱世に向かって回転していく◆樹齢800年から1000年以上、暗殺者が隠れていたとの伝承をもつ境内の大イチョウ(神奈川県指定の天然記念物)が強風のためか、根元から折れ、倒れたという◆〈大海(おおうみ)の磯もとどろに寄する波割れて砕けて裂けて散るかも〉(『金槐和歌集』)。実朝は万葉調の力強い調べの歌を残した歌人としても名高い。あり余る詩才を抱きながら26歳で非命に倒れた貴公子も、時代の暴風に翻弄(ほんろう)された1本のイチョウの木であった、と言えなくもない◆「そういえば遠い昔、かの人も、このようにして…」――樹木にも記憶というものがあるならば、倒れゆく刹那(せつな)、樹肌をよぎる感慨もあったろう。

2010年3月11日01時12分  読売新聞)
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