イラクの連邦議会選挙は、厳戒下の七日投票され、開票が進む。駐留米軍の撤収を控え、真の自立した政権の枠組みができるかどうかの重要な節目だ。民族、宗派の融和を深める好機としたい。
今回は新たな憲法に基づく連邦議会選挙(総選挙)で二〇〇六年五月誕生したマリキ政権の信任を問う最初の選挙。同首相率いる「法治国家連合」、宗教色が強く、首相とたもとを分かった「イラク国民同盟」、クルド人勢力、世俗派などの党派から、定数三二五に対し六千二百人が立候補した。
複雑な多宗派、多民族国家を独裁的強権で束ねてきた旧フセイン政権がイラク戦争で崩壊後、多数派のシーア派新政権と、主導権を奪われたスンニ派との宗派抗争、反米武装組織のテロが激化、民間人死者は十万人を超した。
クルド人を含む民族、宗派間の深い溝を埋めるにはもちろん時間がかかるだろうが、それを克服しイラク人による国造りができるかどうか、壮大な実験ともいえる。
幸い多くの会派が宗教色を薄め、幅広い候補を擁立したことは歓迎すべきことだった。投票率も62%と高く、オバマ米大統領も「成功」とたたえた。
ただシーア派主導の選挙管理委員会が、旧フセイン政権の支配政党、バース党に関係したスンニ派候補者の出馬を禁じたのは宗派融和に逆行し、世俗派のアラウィ元首相が「内戦を引き起こしかねない」と反発したのも当然だ。
大勢判明までにはなお十日ほどかかる。マリキ首相派のリードが伝えられるものの混戦模様で、いずれの会派も過半数には届かぬ情勢。マリキ首相は投票後「次の連邦議会は多数会派が支配するが、他会派を排除するものではない」と、融和を強調した。
懸念材料は治安。数年前に比べれば、改善され、石油の入札も始まった。テロは選挙前から続き、投票当日にはバグダッドだけで治安部隊二十万人が動員されたが、爆弾や迫撃砲により三十八人が犠牲となった。
大油田を抱える北部キルクークを自治区に編入したいクルド人勢力の動きも波乱含みで、米政権内にイランが新政権への影響力拡大を狙っているとの懸念もある。
選挙を機に宗派対立の再燃や政治空白が生まれれば、米軍の撤退計画に影響し、イラク国家再建も遅れる。まさにイラク自立への正念場であり、国際社会からの支援も不可欠である。
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