異例の再投票になった日本弁護士連合会会長選挙に決着がついた。
2月初めの投票で、得票総数は主流派の候補を下回ったものの、多くの地方弁護士会の支持を得て、再投票に持ち込んだ宇都宮健児氏が、これまでの会長選の常識を覆して、当選した。
宇都宮氏は多重債務問題に早くから取り組みテレビなどマスコミにも度々登場する著名弁護士だ。ただ、主流派候補に勝った要因は、その知名度ではなく、司法試験合格者数を現状より大幅に減らすべきだとする公約にあった。
一連の司法制度改革の中で、司法試験合格者数を思い切って拡大し法曹(弁護士、裁判官、検察官)を劇的に増やす政策を日弁連が容認したとき、会員弁護士から強い反発があった。司法試験合格者の9割弱は弁護士になるので、法曹の大幅増員とは弁護士の大幅増員にほかならない。弁護士が増えれば仕事をとりあう競争になり、経済的基盤が揺らぐ、と恐れたのだ。
法科大学院修了者を対象にした新司法試験が始まった後、毎年約2千人の新人弁護士が生まれるにいたって、心配が現実になりだした。東京・大阪に比べ、弁護士にとって割の良い仕事が少ない地方では特に弁護士急増の影響は甚大のようで、規模の小さい地方の弁護士会は宇都宮氏支持に雪崩をうった。
「司法を国民に身近で利用しやすいものにする」という制度改革の実をあげるには、法曹とくに弁護士の大幅増員は欠かせない条件である。
弁護士が地域にいない司法過疎の問題や、お金がない人の民事訴訟や刑事弁護を引き受ける弁護士が少ない問題などを解消してからでなければ、弁護士の増員反対の訴えは、国民の目には、高い収入を失いたくない特権的職業集団のエゴとしか映らないだろう。
新会長のもとで発足する日弁連執行部が、会員からの不満、不安にばかり耳を傾ける内向きの姿勢に陥るのでは、法律で保護された職能団体として社会に負う責任を果たせない。宇都宮氏が選挙公約で唱えた「市民との連携」「市民のための司法を実現する変革運動」も絵に描いたモチになってしまう。