電通時代からトヨタ自動車やJR東日本など数多くの企業広告を手掛けている「コトバ」代表の山本高史さん(48)は、近著『伝える本。』で、「しっかりと」「きちんと」などの言葉を多用する人物はあまり信用できないと書いている▼何か言った気になるが、送り手と受け手の間で意味を共有できない。山本さんはそれを「カラ言葉」と名付け、「(政治家は)曖昧(あいまい)さを感知した上で使っているのだろう」と看破する▼「きちんと議論し…」「しっかりと新たな決意で…」。政界がどれぐらいカラ言葉に汚染されているかをみてみようと発言を拾ってみると、与野党を問わず氾濫(はんらん)していることに驚いた。もっとも、新聞記事も例外ではないのだが▼「約束は約束として、しっかり守らなければならない。一つ一つの政策の実現に向けては覚悟を持って臨む」。米軍普天間飛行場の移設問題で、鳩山由紀夫首相が数日前に語った言葉にも「しっかり」が出てくる。決意は伝わるが、肝心のどう守るかは伝わってこない▼政府・与党の検討委員会はきのう社民、国民新両党がそれぞれ移設案を出し、最終局面に入った。鳩山首相は、五月末までに決着できなければ、退陣も辞さないとの覚悟を示している▼過重な基地負担に苦しみ続ける沖縄県民を前に、これ以上曖昧な言葉を重ねることは許されない。政権は正念場を迎えた。